スイカ農家の夏 🍉

上月くるを

スイカ農家の夏 🍉




 音楽祭で有名な地方都市の郊外に住む小学三年生のぼくの家は、スイカ農家です。

 じいちゃんの、そのまたじいちゃんの代から、ずうっとスイカをつくっています。


 いまはとうちゃんが中心ではたらき、じいちゃんとかあちゃんが手伝っています。

 ばあちゃんとにいちゃんは、ほとんどはたらかず、ぼくは、たま~に手伝います。


 とうちゃんの話によると、スイカ栽培はむかしよりいけなくなっているそうです。

 ライフスタイルの変化で、冷蔵庫に入らない大玉はよろこばれなくなったのです。


 それでもがんばってつくるのは、ご先祖さまに申し訳が立たないからだそうです。

 苦労して「波多野スイカ」を日本一のブランドに仕立ててくれた先輩方に……。



      🐥



 おれのあとは、モトイチが継ぐんだぞ……とうちゃんは言います。

 むかしから農家は長男があとを取るものと決まっているからなと。


 でも、ぼくは何となく、にいちゃんはスイカ農家を好きじゃないと思っています。

 ブレイクダンス? あれに夢中で、放課後や休日は公園で仲間とはじけています。


 それがまた、わが兄貴ながら、惚れぼれするほどカッコいいのです。(^_-)-☆

 身体能力は抜群だし、手も足もすらりと長いし、顔もそこそこのイケメンだし。


 チビで、ノロマで、ド近眼の分厚いメガネをかけている、弟のぼくとは正反対。

 かあちゃんはぼくに「わたしに似ちゃってごめんね」といつも言ってくれます。


 なので、にいちゃんはこんな田舎におとなしくしている人ではないと思うのです。

 もし、そうなったら、次男のぼくがスイカ農家を継ぐしかないなと思っています。



      🦜



 そんなぼくが気になるのは、かあちゃんに対するばあちゃんの言葉づかいのこと。

 にいちゃんやぼくには甘いのですが、「いい大人」のかあちゃんにはきびしくて。


 もともと小柄で華奢なかあちゃんは、農家の嫁には向かないと反対されましたが、かあちゃんにゾッコンだったとうちゃんが、どうしても、と結婚したのだそうです。


 ばあちゃんもイジワルな人ではないのですが、かあちゃんと逆に頑丈な身体つきで風邪ひとつひいたことがないので、すぐ熱を出すかあちゃんが気に入らないのです。


 それで、顔さえ見ればイヤミめいたことを言ったり、かあちゃんが臥せているときに限ってわざとらしく物音を立てながら掃除をしたり、ということになるみたいで。


 いつかぼくはそんなばあちゃんに、溜った怒りをぶつけてしまいそうで心配です。

 そうなったら、もっとかあちゃんを悲しませるので、それはぜったいに駄目です。


 

      🤸🤸‍♂️🤸🤸‍♂️



 きょう一日、ぼくはスイカの採り入れを手伝いました。

 とうちゃんは、特大の重いやつまで任せてくれました。


 黙って笑っただけですが、少しはぼくにも期待してくれているのかもしれません。

 ぼくは、かあちゃんを守るためにも、大きくなっても家をはなれないつもりです。


 あしたは、ぼくの尊敬するにいちゃんたちのグループが、街中でブレイクダンスのパフォーマンスを披露するので、とうちゃんかあちゃんと三人で見に行く予定です。


 

 

 

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