第37話 大団円

 デモニアスの襲撃に備えて、いざと言う時の為に、ジーラスカ王国領への転移魔法陣を皆が滞りなく出来るように用意してある。


勿論、話はジーラスカの国王に通してもらっているので安心だ。


「これでいつ来ても対応出来る」


「魔力感知の魔道具も、そこらじゅうに設置してる有りますので、この前みたいに後手は踏みませんよ」



レイオスさんは自信満々だ。油断は禁物だが、士気は高いし大丈夫だろう。




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「場所の特定は出来んが、この地域にラバブウの気配がするな」


「やはりそうでしたか。この辺りはオズスレイ王国の領地になります」


「では、この辺りの魔物を使って捜させてみるか」

「お願い致します」


森の中から数えきれない程のグレートウルフが、地面からは数えきれないアンデッドウォーリアが這い出て来て、オズスレイの領地に散らばって行った。




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「……姉御、魔道具に反応が」

「来たか。誰かミロウク様に知らせて来てくれ」


「はい」




「ミロウク様、魔道具に反応があったそうです」

「分かった、行こう」




防壁の上で気配を探る。来る、大きな気配が2つ。1つはとてつもない威圧感だ。隠す気は無いらしい、これがデモニアスに違いない。


「ミロウク、たまには先制攻撃しましょうよ」

「良いね」


リスバティが表裏一体の剣ケンとメアリを振る。


俺も『指定、ブリーズ 50×50』


リスバティと俺の魔法が相まって、氷の刃を含んだ竜巻が2つの大きな気配に向かって行った。





「何やら仕掛けて来たようで御座います」

「フッ、たわいない。消滅せよ!」




「かき消されてしまったわ」

「単純な魔法攻撃は通用しないらしい」



空中を飛び近づいて来たガーマの隣にいるのがデモニアスか?姿形は人と変わらない。



「ならば私が行って参ります。この降魔の剣なら奴を傷つけられるはず。レイオス、ここを頼む」


「はい、姉御」


「俺も行きます」

「私も」



「来たな小僧、今日で終わりだ」

「お前こそ」


「お前達か?ガーマをイライラさせているのは。少しは私を楽しませてくれるのだろうな?ん、表裏一体の剣ではないか。……ザリエクとモディクオを倒したのはお前か?」



「そうよ覚悟なさい」


「フフン。小娘、お前に使いこなせるとは思えんが」



「戯れ言を」


リアさんが仕掛けた。降魔の剣がデモニアスの首をとらえた。勝負は呆気なくついた……。


[キン!]


「なっ、バカな。降魔の剣が弾かれるなんて」


「ズルいではないか?話の最中に攻撃してくるなどとは、ではこちらも参る」



デモニアスの大剣がリアさんを襲う。俺とリスバティが割って入り大剣を受け止める。デモニアスの動きは速い。直ぐに俺に大剣が飛んできた。


「くっ、昇速×10、身体強化×10」


「どうした、どうした?」


俺が受けている間に、リスバティとリアさんが斬りつけるが全て弾かれる。


「そうか、アブソーブコートか?」


「ほう、よく判かったな。女、中々の物識りだ」


「ヘルファイアー!」


「マジックシールド!ガーマの奴、ちょこまかと」


「ふん、よそ見してよいのか?仲間が死んでしまうぞ」


「くそっ!」






「レイオスの旦那、ミロウクさん達は苦戦してますね」


「ああ、デモニアスの奴、おそらくアブソーブコートをかけてるんだ。剣の威力が全部消えちまう。かといって魔法は通用しないし」


「それじゃ、どうするんです?」


「う~ん、精霊の剣があればな、打ち破れるんだが」


「精霊の剣?…………頭、精霊の剣ですって」


「ん?」

「精霊の剣ですよ!持ってるでしょ?」


「えっ、あ、確かアイテムバックの中に……これか?」


「え~、何で持ってるの?」

「勇者の隠れ家で手に入れたんだ」


「勇者の隠れ家ですか……おお!天の助け。でもどうやってあそこに持って行こう、あの戦いの中へ持って行くのは至難の技だ」



「じゃ、私が持って行ってあげる」

「へっ?どちら様で?」


「いいから、その剣を貸しなさい」


「どうやって行くんです?」

「こうするのよ」


「うわっ、背中に翼がはえた……と思ったら飛んで行っちゃたよ」




「ミロウク、これを使いなさい」


「え、えっ、誰です?」


「いいから、これは精霊の剣よアブソーブコートを打ち消せる」


「あ、ああ、解った」


「リアさん、交代だ」

「ミロウク様、……精霊の剣?」


「今度はお前か?ん、どうした剣を抜かんのか?下らん。そろそろ飽きた、おふざけはここまでだ。死ぬがよい」



俺は中腰になり腰の位置に剣を置き、抜かずに鞘を持ち、グリップを握って構える。


デモニアスの大剣が真横から俺の首を落としに来た。俺が打ち勝つにはこれしかない。


俺が修得している唯一の"イアイ"の技。


俺は剣を抜かずに回転させ、左手を添えて鞘で受け止める。身体強化の重ね掛けで力負けはしない。流れを止めず、右に回り込みながら剣を抜き、デモニアスの腹を斬った。



「カハッ」


「今よミロウク、いつものアレ」

「いつものアレ?」


「貴方が気を失う冷気」

「でも上手く行くか判らない」

「大丈夫。さあ早く」


何処の誰だか知らないけど、うちの国にリスバティ以外にこんな可愛い娘、いたっけ?


「早く!」

「は、はい」


手を広げいつものように念じる。……やっぱりダメか?



諦めかけた時、俺の手から風の渦が発生した。


そしてそれはキラキラ輝り出しデモニアスを包み込む。触れた所から瞬時に凍りつき、ピキピキと音をたて始める。亀裂が入り次の瞬間には粉々に砕け散った。



「やった、ミロウク!」

「ミロウク様」


「誰だか知らないけど、ありがとう……いない?」



「死ねい!」


しまった。油断してガーマの事を忘れていた。


「リスバティ!」


ダメだ間に合わない。その時、リスバティの首飾りが煌めきガーマに向かって虹色の光を浴びせた。


「何だこんな物。痛くも痒くも無いわ」


ガーマの持っていたダガーはリスバティに刺さる寸前、大地にポトリと落ちた。


「どうなった?」

「ミロウク様、あれを」


「灰色の結晶」


「おそらく元素転換の魔法かと思われます」


「この首飾りは、やっぱり魔道具だったんだ」


「この結晶はガーマと言う事なの?」

「そうなりますね。どうしますか?」


「ろくな事にならないから、壊します。トーチ×20!」


灰色の結晶は粉々になり燃え尽きてなくなった。


「終わったのよね」

「そうです。リスバティ様」




「レイオスさん、この剣を持って来てくれた女の娘は?」


「それが私にもさっぱり判りません」


「そうですか。では、どなたの剣です?」


「それはお頭の、いえ私達商会の主人の物で御座います」


「ありがとう、助かりました」

「お役に立てて良かったです」




「ミロウク、これからどうするの?」


「グルマさんに報告してから、魔族の拠点になっているズオーバ王国に行こうと思う。心配事は魔王だけになったからね」


「解った、行きましょう」



国の事はリアさん達に委せてズオーバ王国に向かう。


魔王軍はあれから何処にも姿を見せていないのだ。デモニアス復活の影に隠れて誰もが忘れていた、これも恐ろしい事なのに。



王都スバーデン、荒れてはいたが王都の中に入っても魔族の姿はなかった。


「変だな?」

「そうですね」


疑問に思いながらも自然と元の自分の家、ザッハ家の屋敷に向かっていた。


屋敷はそのまま残っていた。魔族の気配はない。


皆の姿は無い。殺されてしまったか?


大広間に入る。


「うっ!」凄い臭い。


「ミロウク、……」


そこにいたのは首輪をされ、鎖で繋がれている父と兄達だった。


目は潰され、手首、足首は切られていて死なないように傷口は治してある。


「父上……」


かなり前に事切れていたらしい。



「トーチ×5!」


屋敷は父上達と一緒に燃やす。火は勢いよく上がる。悲しくは無いが涙はでた。


「城に行こう」

「はい」




城もほとんど壊れていない。戦力差がかなり有ったのだろう、簡単に落とされたに違いない。



「何者だ!」

「やっと魔族に会えた。魔王を倒しに来たよ」


「なにをバカな事を、お前ら2人で何が出来る」


「やってみないと判らないだろう?ブリーズ×10!」


「グェッ」


「貴様!」

「何だ騒々しい」


「コンダゴン様」

「こやつらが」


「誰だ貴様ら」


「そんな事はどうでも良い、魔王をだせ」


「思い上がりおって、魔王様はいない。我らは魔王様が戻られるまでここにいるだけだ」


「いない?」

「ガーマとか言う奴と何処かに行ってしまわれた」


「……そう言う事か。魔王はガーマに殺られたんだ」


「では貴方を倒せば魔王軍は終わりね」


「小娘が戯れ言を……お前、半魔か?」


「そうよ。父の仇、レイジング・アイス・ブレイド!」



「ウグッ、なに……を」


「コンダゴン様!」


「お前達に勝ち目など無い。国に帰れ!」

「ううっ」





         ☆☆☆☆☆


「そうですか、魔王はガーマに倒されていたのですね」


「そのようです」

「魔族はこれからどうするのでしょう?」


「それでしたら、魔族の隠れ里に行って話して来ましょう。魔王のような人族を嫌う者がいなくなり、急進派崩れた今なら穏健派の実力者がいますので、良い方向に国を立て直す事が出来るかもしれません」


「それが出来れば良いですね」



そうなったら、リスバティの敵討ちも終わったし、国に帰ってしまうのかな、寂しいな。



世界中にデモニアスが倒された事と魔族が撤退した事が伝わると各国は落ち着きを取り戻した。


しかし、デモニアスが放ったグレートウルフとアンデッドウォーリアのせいで、オズスレイ王国の領地は惨憺たる物だった。



俺の国の噂を聞いてオズスレイの領主達が救いを求めて来た。


リアさんは魔族の隠れ里に行っているので、レイオスさんが対応してくれた。


どこでどうなったのか?オズスレイ王国がそっくりそのまま俺の国になりましたと、レイオスさんから報告が有ったのはその日の夜だった。



「何でそうなる?」

「良いじゃない。一緒よ」


ピッピッピッピーピッ何処にも行かないで


と言いなさい。


「えっ、何処にも行かないで」


ピーピーピー結婚して

と言いなさい。


「結婚して下さい」


「ミロウク、本気?」

「う、うん」


「嬉しい、喜んで」


ピイーピッキスするのよ


お、おう。


俺はリスバティを抱きしめてキスをした。俺の初めてのキスは甘い味がした。




今日は俺達の結婚式が行われる日。あの時、誰が優柔不断の俺をあと押ししてくれたのだろう?感謝致します。


シュエネは嬉しそうに空を飛び回っていた。





ー終幕ー




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伯爵家を追い出された生活魔法しか使えない俺の建国記~知らない内に勇者のスキルを受け継いだ俺は、ダメスキル重ねるを使って魔族から追放された半魔族の少女と冒険旅、そして頼れる仲間と世界を救う 主水 @321155ma

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