氷の空に日がさすように

はざま

氷の世界に希望の光は差し込むか

西の空は夕焼けの残照を残すばかりになり、茜色から紫色を経て、濃紺へとつながるグラデーションに彩られている。東の空には、明るい星がぽつぽつと見え始めており、今日も天体観測には申し分のない天気になりそうだ。

僕は、最寄りの鉄道の駅前で、公用車の中から空を眺め、新しい相棒の到着を待っていた。新任者は、18:32着の鉄道で駅に到着した予定だから、もうじき出てくる頃か。公用車には、天文台の名前がでかでかとプリントされているし、がっつり山道を登るためのオフロード車で目立つはずだから、すぐわかるだろう。そんな感じのことを考えていると、駅舎の入り口から小柄な人が一人現れ、きょろきょろとあたりを見回した後、こちらにやってくるのが見えた。


ドアを開けて車を降り、刺すような寒さに一瞬身震いしてから、リアハッチの方に回って、駅舎の方に手を振り、新任者が来るのを少々待つ。

やってきた者が、見知った顔だったので、僕は驚き、一瞬固まってしまった。

「お疲れさまです。本日付けで着任した、新藤 真琴です。またよろしくお願いしますね、先輩。」

彼女は、大学の後輩で、同じ研究室で2年を過ごした仲だ。昨今の情勢下で一気に人不足になっているとはいえ、まさかこんなに身近な人物が来るとは思っていなかった。新任者が来ることを管区長が電話してきたときに「あ、新任の子はとってもいい子だけど、誰かは秘密ね。あんまりはしゃぎすぎないようにね~」と言っていた意味がよく分かった。

「久しぶりだね。まさか君が来るとは思ってなかったよ。

遠いところお疲れさん。とりあえず、荷物は後ろに乗せて、天文台に行こう。」

僕は、リアハッチを開け、彼女のスーツケースを入れると、運転席に戻る。

彼女は助手席に乗った。


プレヒーターのスイッチを入れて暖気したあと、イグニッションを繋いでセルモーターを回し、エンジンをかける。駅前のロータリーを回り、天文台の方へ向かう道に車を走らせる。フロントガラス越しには次第に見えるようになってきた星が寒空に瞬き、バックミラーには、駅舎の光が見えた。駅前にわずかに残る市街地を抜けて、天文台へと続く道に車を向ける。地方の山間部の道路は車通りが全くなく、やがて目につく光は星々のきらめきだけになった。

少し落ち着くと、助手席の新藤が口を開いた。

「前澤研でご一緒していた際にはありがとうございました。何とか今年卒業できて、推薦ももらえたので、宇宙開発事業部に入ったんです。そうしたら工藤管区長から、人手が足りないから女性同士で割り当てられなくてすまん、男女一緒だけど配慮したからって言われて、誰かと思ったら先輩だったんで、とってもびっくりしました。あ、でも、私としてはとてもうれしい配慮でした。」

研究室時代から変わらず、明るく饒舌な彼女に思わず頬が緩む。

「僕も、まさか君が来るとは思ってなかったよ。工藤管区長はすごく意味深に言ってたから、誰が来るかとそわそわしてたんだけれど、見知った顔でほっとした。」

「それで、実はわたし、今回の赴任先のことちゃんと知らないんですけど、ざっと教えてもらっていいですか?」

これまた、少し懐かしい雰囲気に、僕が「こいつ、相変わらず自分の手じゃなくて誰かの頭使う気か?」と怪訝な顔を向けると、即座に反応した。

「あっ、詳しいことは後でちゃんと資料読むんで、大丈夫です。わかってますって。」

その反応まで大学院のころから変わっておらず、懐かしいような気分になる。

「まあ、今晩から早速観測業務もあるし、ざっと説明していこうか。いま僕たちが向かっているのは、ヘスティア計画のために追加で建設された60cm級近赤外-可視光域観測-通信施設の一つだ。正式な名前は”JH-VO5”というものだけれど、地元では、建設時の愛称の『あかね山天文台』で通っている。天文台の主な業務は、地球に太陽光を送り込んでくる高効率反射鏡の位置の確認と稼働ログのダウンロード、それと必要に応じて命令をアップロードすることだ。」


***


1980年代には、化石燃料の使用に伴う煤煙が太陽光を遮ることで、平均気温は下がるという予測がなされていたという。しかし、1990年代になると、温室効果ガスの効果や長期観測のデータを取り込んだ気象シミュレーションなどが行われ、温暖化がしきりに危惧されるようになった。実際に、2020年代までは、世界は温暖化が進んでおり、異常気象といえば、温暖化に起因するものだったらしい。


しかし、実際の地球環境は、人類の想像する世界よりも、ずっとダイナミックな変化を遂げるようだ。2028年には、平均気温の急激な低下が観測されるようになり、海底深層流のルートの変更も観測された。北極海の氷は、夏でも分厚く残るようになったし、南極の棚氷はその面積を少しずつ増やすセンスに転じ始めた。


そして、2030年台には、地球の平均気温は1990年の値を下回り、

僕たちの生きる、2045年の世界は、温帯にあったはずの僕たちの国でも、秋口を過ぎると、一面凍り付くような気候になった。


そんな世界の危機の中でも、人類は一つになることができず、いまだに国家は存在し続けているし、同じ目標に向かっていくつかの勢力がのたうち回りながら進んだ。もちろん、その中で無意味な争いが繰り返され、人類はとうとう限定的な核戦争を大気圏外で起こしてしまった。その結果は、GPS・GLONASS・ガリレオ・北斗といった宇宙測地システムの全面的なダウンと、発生した電磁パルスによる膨大な被害だった。唯一の救いは、その戦争が大気圏内に持ち込まれることもなく、比較的早期に決着がついたことで、同じく唯一といってよい副産物は、多くの人工衛星が蒸発したり、制御を失って大気圏内で燃え尽きたりして、低-中高度の地球周回軌道が一気に整理されたことだ。


そこで、僕たちの国が所属しているグループは、ある計画を思いついた。巨大な鏡を複数宇宙空間に打ち上げ、地球を照らし出そうというものだ。古くは、旧ソ連が構想したこともあるようだが、僕たちには、仮にも半世紀のアドバンテージがあった。複合材料を利用した軽量な反射膜を利用すると、500基程度の衛星を有効に利用すれば、寒冷化を多少以上に打ち消すような熱エネルギーを地球に与えることができることが判明した。「ヘスティア計画」と名付けられたこの壮大な計画は、なぜか国々によって承認されてしまい、僕たちの国も含め、この計画に参加している。


この計画で問題になったのは、通信手段だ。大気上層でドンパチ核爆発を起こしまくったせいで、地球の電離層はいまだ安定せず、無線通信が満足に利用できる確証が無くなってしまったのだ。そこで、衛星チームは、近赤外のレーザー光線を利用して、光通信することを考え付いた。幸い、僕たちの国々のグループは、地球の経度方向にいい感じにばらけて位置しているため、どこかの国は「夜」になっている。しかも、十分な出力のレーザーを用意すれば、近赤外域であれば薄雲程度なら透過して衛星側から検出できるだろうということだ。


この赤外線レーザーによる通信が採用されてから、国内にあった大型天体望遠鏡は一気にその価値を上げた。そればかりか、必要な配置になるように、いくつも増設されたほどだ。そして、そのおかげで、僕のようなしがない技術者も、天体望遠鏡のお守りという役職を得ることができるようになった。


***


幹線道路から、わき道に入り、天文台がある山間部へと車を向ける。まもなく除雪されている区間が終わり、道路には雪が現れた。凍てついたアスファルトに吸い取られていたヘッドライトの明かりは、真っ白な雪に散乱され、視界が少し明るくなる。一度停車して、車のセンター・デフのモードを、4WD-Lockに切り替え、再び車を発進させた。

「なるほど。私たちは、宇宙を飛んでる鏡が、正しい位置にいるのかを望遠鏡で追って確認することと、前の通信修了時から望遠鏡に何があったかを記録したデータをダウンロードすること、それと、本部から要求されたときに必要なデータをアップロードすること。要はそういうことなんですね。」

新藤が簡単にまとめる。

「まあ、そういうことだな。細かい話はいくらでもあるけれど、そういった技術的な話は天文台についてから、実地で説明した方がよいだろうからそうするよ。」

「じゃあ、もっと大まかなことをいくつか説明してもらえますか?私たちは、一晩でいくつの衛星を追いかけないといけないんですか?」

「うん、鋭い質問だね。一晩で10-15基だ。宇宙反射鏡は、今のところ100基ほど打ちあがっている。で、地上の天文台もいくつもあるから、それらでネットワークを組んで分担して観測と制御を行っているんだ。ただし、近赤外域のレーザー光線で通信をする関係上、衛星がいる宙域が雲で隠れていると途端に通信効率が落ちるから、ある衛星について、経度30度毎に3点の観測点が観測するようにスケジュールが組まれている。僕たちは、衛星を補足したタイミング、位置を確定したタイミング、そして、データをダウンロードしたタイミングでそれぞれ、計画本部のサーバーにアクセスしてそのことを報告している。あと、データをダウンロードした時には、そのデータもアップロードしているんだ。だから、信じられないことに、僕たちの天文台も、こんな山の中にあるにもかかわらず、光ファイバーがこの道沿いの地下に埋設される形で引かれていて、高速な通信網に加わっている。」

「なるほど。しかし、一晩に15基っているのは、なかなか忙しいですね。一基当たり30分かけられないこともあるぐらいのペース配分ですよね。」

「うん、実のところ、一人でやるにはかなりしんどい仕事だったよ。衛星の軌道によっても時間は制約されるから、実質一基当たり15分で観測しないといけないことになる。1週間前までは、望遠鏡の施工元の東亜光機の技師の方が調整込みで手伝ってくれてたけど、この1週間は曇りの日が待ち遠しいぐらいだった。」

「天文台で働く人のセリフとは思えない一言ですね。」

そういって、少しの間二人で笑いあう。


山道かつ雪道の悪路を4駆の走破性に任せて上ること30分ほど。あたりの木々か少しずつまばらになりはじめ、天文台が見えた。

「見えたぞ。あれが『あかね山天文台』だ。建屋は2棟。ドームがある方が観測棟で、もう一つの直方体の方が管理棟だ。ドームには、天体望遠鏡とその架台、それと観測装置と高出力レーザー発振装置がある。管理棟は、高速計算機と通信設備、発電装置、それに僕たちの生活空間がある。」

「思ったより、ドームはこじんまりしているんですね。」

彼女が言うように、ドームはそこまで大きなものではない。ドームは視界確保のための一階部分がある分コンクリ平屋の管理棟より背が高いが、直径で2mほどの半球形で、2トントラックの方が大きいほどだ。

「まあ、業務用の施設だからな。必要かつ十分なスペックになるんだよ。」

そんな話をしながら、車を施設棟の車庫に入れる。

「さっそくで悪いんだが、実は20時から業務を開始しないといけなくてね。業務終了は28時だから、今日来たばかりだときついと思う。業務の説明は明日からにしようか?」

新藤に尋ねると、時計を見てから、少し迷った後、

「せっかくなので、見せてください。多少でもお役に立てれば。」

と答えた。



天文台のスリットを開けると、冷たく輝く星々が顔を出す。僕は、手元のノートパソコンを操作し、カペラを主鏡に入れるように赤道儀に命じた。有効光学口径60mの可視光・近赤外光望遠鏡は低いモーター音を上げ動き出す。それを横目に見ながら、僕たちは天文台のドームを出て、管理棟の観測室へと向かった。ドームの外階段からあたりを見回すと、月明かりの中、一面の凍てついた森が広がっている。木々は凍てつき、樹氷が張っている。まだ初秋だというのに、すでにこの様子だと、今年の冬の最低気温はどうなるんだろうと、まるで他人事のような感想を頭に浮かべたころ、僕たちは観測室のドアの前までついた。

暖房の効いた観測室に入ると新藤が声を漏らす。

「くーっ、さすがに外は寒かったですね。-15℃はあったと思います。」

「まだ20時だからせいぜい-10℃ってところだよ。早めに防寒着の追加を送ってもらうようにな。」

そんなことを言いながら、ノートパソコンを観測室のLANに繋ぎ、望遠鏡の状態を確認する。正常な動作を確認したあと、観測用のパソコンのモニタの電源を入れ、カセグレン焦点に設置されているカメラの映像をモニタに表示した。

「ほかの天文台と同じように、僕たちも基本観測中には天文台には入らないようにしている。これは、人間の発する熱がドーム内の空気を対流させてしまい、観測に悪影響を与えるからだ。だから、こういう高速計算機とか、通信機とかの電子機器も基本ドームから追い出されている。ただ、安全確認のため、望遠鏡の立ち上げのタイミングと、ドーム開閉のタイミングでは、念のため、ドーム内に入って目視で確認した方がよいね。」

「なんか、徹底的に現実的なんですね。まあ、あったかい部屋の中にいるのには賛成ですけど...」


「まあ、そんなもんだ。で、望遠鏡には二つカメラが取り付けられている。一つは、このカセグレン焦点で、もう一つは、ニュートン焦点だ。カセグレン焦点のカメラは、焦点距離が長いので、拡大率が高い。一方、ニュートン焦点の方は、F値が小さく、明るい像が得られる。」

「えっ、明るい像が得られるってことは、わずかな光でもとらえられるってことですよね。ってことは、観測にはこっちを使いますよね。」

「その通りだよ。」

「じゃあ、なんで今カセグレン焦点の映像を出してるんですか?」

「いい質問だ。僕たちの最初の仕事は、正確な時刻を求めることだからだよ。」

「正確な時刻?時計じゃダメなんですか?」

「残念ながら、精度が足りない。水晶発振子を用いた一般的なクオーツ時計だと、頑張っても一晩で数ms<ミリ秒>の誤差が出てしまう。ところが、高速で飛行していく宇宙反射鏡を追尾して、正確な位置を調べるには、その1000倍のμs<マイクロ秒>の精度が必要だ。だから、こうやってカセグレン焦点で、恒星を位置を正確に測定して、時刻を合わせるんだ。」

僕はそういいながら、カセグレン焦点で撮影された画像を恒星図と照合する。

高感度な撮像センサで撮影された1Gピクセルの画像から、機器ノイズにあたるダークイメージを減算し、GPGPUを使って高速フーリエ変換した上で相関計算を行う。相互相関係数の数値を確認して、十分な精度で照合されたことを確認し、観測システムの時刻を補正した。

同じ操作をベガとアルタイルでも行う。

「こうやって複数の明るい星の周辺宙域を使って観測に十分な精度の時刻校正と望遠鏡の制御精度の確認をするんだ。」

「了解です。」


「次にいよいよ衛星の補足を行う。このソフトで、今日のターゲットを確認して、順番に望遠鏡を向けていくんだ。」

モニタに表示するものを、ニュートン焦点のカメラの映像に切り替え、今日最初のターゲットの衛星を導入するように望遠鏡に命じる。

モニターには、星全く見えなくなる丸い空間が動いていくのが見える。

「この星が隠されている部分が、反射鏡がある場所だよ。」

「あー、この反射鏡は、夜側にいるから今は真っ暗なんですね。」

「そう。そして、それが肝心だ。というのも、反射鏡が稼働しているときには、反射した光が邪魔になって、うまく高い効率で光通信できないからね。」

「なるほど。」

そんなやり取りをしながら、僕は、ニュートン焦点で映る反射鏡の場所をセンタリングし、カセグレン焦点に切り替えて、反射鏡の座標を確定させた。

「反射鏡をとらえたら、こうやって、より高精度なカセグレン焦点の映像から、位置を確定する。」

「了解。」

「で、次は、呼び出しを行う。これはレーザーを使うから、一応警告のために赤色灯を回してから行うよ。」

そういって、光通信用のソフトを呼び出し、実行する。

2回表示される警告表示に、「はい」と答え、1kWの近赤外レーザーを使って呼び出し信号を反射鏡に送った。

ほどなくして、反射鏡側からもレーザー光が発され、通信が確立する。

「先輩、映像が固まってませんか?光通信してるなら、もっとこう、チカチカしてても良いのでは?」

新藤がニュートン焦点の映像を示しながら訪ねてくる。

「あー、そうか、説明してなかった。レーザー通信は、高感度な撮像素子によくないから、カメラではフィルタアウトされているんだ。その代わり、通信用の高速度フォトセンサを使っている。その様子が見たいなら、...えっと、...あ、これだ。」

そういって、フォトセンサの電圧変化のグラフを見せる。

「うん、まったくわかりませんね。さすがバイナリデータ。」

「ま、そうなるよな。ということで、僕たちはその間、軌道計算をしている。」

そういって、僕は、ニュートン焦点のカメラ画像の解析を始めた。

先ほどと同じように、カメラの画像を、相関処理して、周囲の恒星との位置関係から、期待した位置を飛行しているかを調べさせる。

待つこと5分ほど。光通信が終了したらしく、ダウンロード完了のポップアップが画面に表示された。

「あっ、光通信が終わったみたいです。」

「そうだな。これで、データのダウンロードはOK。軌道推定ももうじき終わるだろう。」

そういっているうちに、軌道要素の項目の状態欄が「推定中」から、「推定完了」になり、軌道要素が表示された。

「うん、大きく外れてないな。これも本部行きで転送と。」

僕は一応推定された反射鏡の位置を撮影された画像に重ねて表示させた後、現在の予測位置と実際のニュートン焦点の映像を見比べ、一致していることも確認する。

「よし、で、あとは、このソフトに全部のデータを入れて、送信したらこの反射鏡は作業完了」

観測データ報告用のソフトに、これまでのデータをまとめ、送信ボタンを押す。

「お疲れ様です。自動化されてる割に意外とせわしなくて、バタバタしますね。この仕事。」

「そうなんだ。デスクワークなんだけど、問題があればすぐに望遠鏡のもとに行かないといけない。曇ったら観測回復計画も並行で考えなきゃいけないし...」

と愚痴っていると、アラームが鳴る。

「あっ、次の反射鏡の観測時間だ。よし、導入指令を。...」


バタバタした業務は、27時に終わり、望遠鏡のチェックとドームの閉鎖を行った。

「新藤、ちょっと外に出よう。いいものが見えるよ。」

僕は目の下にクマができた新藤を外に誘う。

「え~、今一番寒い時間ですよ。」

とブツブツ文句を言いつつも、一応後からついてきてくれた。

「今が一番いいタイミングなんだ。」

そういいながら、僕は新藤を連れて、ドームの外階段を上った。

「ほら、あっちを見ててごらん。」

僕は東の空、地平線近くを指さす。

「え?何ですか?」

「あと、20秒ぐらい。」

「ん?」

まだほのかに明るいかどうかといったくらいの漆黒の空に、ほのかに明るい点が見え始める。

それは次第に明るさを増しながら、徐々に高度を増し、天頂の方へと駆け上がる。色はほのかな紅色から、黄色味を帯びていき、次第に白色へと変化していた。

光の点は、さらに数を増やす。

「うわー、一つ、二つ、5,6,たくさん!」

「あれが、僕たちの操る反射鏡だよ」

朝焼けが始まる直前の空に、24基の反射鏡衛星による人工の日の出が、一足先に訪れていた。あの光が、人類にとって希望の光になるかは、まだ定かではない。でも、僕たちの科学技術は、地球環境の激変にあらがう一筋の光を作ることには成功していると、そうはっきりわかる光景だと、僕は思う。

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