農林水産大臣の夢

#365日ショートショート 120

　農林水産省大臣としての大役、本当にお疲れ様でございます。

「いえいえ、これも国民の皆様のご理解とご声援があってのことです。こちらこそ、ありがとうございます」

　大臣、今のお気持ちを率直にどうぞ。

「この規模の事業を任期中に終えられるとは思いませんでした。安堵と、そして嬉しさがゆっくりと湧いてきています。工事に携わってくださった皆様への感謝は尽きません」

　全国の水道管を全て新規格に取り替えるという、前代未聞の事業でしたね。

「ええ。確かに時間はかかりました。私もすっかり白髪だらけです。しかし、これをどうしても実現させたかった……。今だらこそ言えますが、今回の事業は、私個人の野望でもありました。いえ、あるいは夢でしょうか」

　と、仰いますと？

「この事業の構想は、私が小学生の頃に固めたものなのです」

　まさか！政治家を志す前からの構想なのですか。それは驚きました。どうして幼少期にそのような……

「あの時の私は本当に子供でした。毎日好きなようにお菓子を食べては、ジュースを飲んでいました。中でもコーラが一番好きでね。近所でも有名なコーラ小僧でした。母親には、コーラを飲みすぎると骨が腐ると怒られたものです」

　それが今回の事業の発端だと？

「そうなのです。ある時、声が聞こえました。神か悪魔かは分かりません。私が9歳の頃です。願いを何でも叶えるというので、私は間髪入れず答えました。水道からコーラが出るようにしてほしい、と。事実それは叶いました。試しに教わった通りに、えいっ！と唱えると、自宅の水道からコーラが出たのです。嬉しかったですねぇ。浴びるように飲みました。しかし後で分かったのです。水道管というのは、糖度の高い液体だと腐食してしまうのだと。これは大変だと、私は慌ててそれを解除しました」

　大臣、それは、つまり……

「そう。今回の事業で導入した水道管は、耐糖性能に長けた新規格です。これでやっと念願が叶います。えいっ！」