第25話 コンビネーションサッカー
「あのさ、俺さ、今横にいる子の連絡先を聞きたいんだ」
俺は合コンの途中でトイレに立った。そうしたら男側の幹事、ヨウスケもついてきた。
手を洗っているところで、俺はヨウスケにこう切り出した。
ヨウスケは合コンの幹事を何度も、いや、何十回も経験しているスペシャリスト。頼むならこのタイミングしかなかった。
「そうなのか。カナちゃんだっけかな。いいじゃん、連絡先交換すれば」
「そうだけど……そうじゃないんだ。あのな……そのな……タイミングがわかんないんだよ。何度も聞こうと思ったけれど。そのさ……俺さ……」
「あーそっか。そういえば、お前、彼女いたこと無かったもんな」
そう言われて俺はうなずく。俺には彼女がいたことが無い。いや、女子と仲良くしたことすらほぼ無い。だからもちろん、連絡先の交換なんてしたことが無い。20才を超えて、いまだにだ。
「OKOK。俺に任せておけ。最高のパスをあげてやる。お前はシュートするだけでいい」
ヨウスケは何か思いついたのか、俺の肩をポンと叩いた。
トイレに戻ってからも、合コンは何事も無いように進んでいった。
ヨウスケは任せておけといった。情けない話だが、ここはヨウスケの力を待つことにした。
時間はどんどん流れていく。ヨウスケからのパスは無い。多分、無い。
時間はさらに流れていく。ヨウスケからのパスはいつ来るんだろうか。信頼していないわけではないが、俺は少し不安になってきた。早くしてくれ。俺の心臓のために。
そして22時になった。ヨウスケは腕時計を見、うん、と小さく頷いた。そして話を切り出した。
「じゃあ時間も時間なんで、そろそろお開きにしたいと思う。女子を余り夜遅くまで連れ出すのもどうかと思うからねー」
合コン参加者全員の視線が、ヨウスケに向けられる。
「で、この合コンが最後じゃなくて、最初の1回にしたいんだ。仲良くなった人もいるだろうからさ。んじゃま、連絡先の交換とかちゃんとしておいてね。皆さん忘れ物の無いように! 家に帰るまでが合コンだよ!」
パスが来た。それも直球のパスが来た。こんな勢いのあるパスは想像してない。来た。来てしまった。しかしだ! がんばれ俺! ヨウスケからの最高のパスを! シュートするんだ!
「あのさ、カナちゃん、俺と連絡先交換しない?」
俺は言った。言ってしまった。もっといい聞き方とか無かったのかよ。
「いいよー。また遊ぼうね」
その言葉を聞いて、俺とカナちゃんは連絡先を交換した。
女子勢を駅まで送った。
そして、女子の姿が全て見えなくなった時、ヨウスケは「ナイスシュート!」と親指を立て、俺に言った。
俺は「ナイスパス!」と親指を立てて言い、そしてヨウスケと片寄せて笑いあった。
やっぱスペシャリストはすげえな、素直にそう思った。でももう少し手心と言うか、いや、なんでもない。
恋に額縁を、愛に角砂糖を。 みついけ @mitsuike1988
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