第24話 曖昧かつ曖昧な
「久しぶり。報告するね。先月結婚しました」
深夜、僕にそうメッセージが届いた。昔の彼女、サヤカからだった。
彼女の名前を見聞きするのは何年ぶりだろうか。あまりの懐かしさで手と心が震えた。
サヤカとはお互い、好きという感情が曖昧なまま付き合った記憶がある。お互い恋人と別れ寂しかった時、横にいた相手の手を掴んだ。そんな感じだった。
「好きです」という告白さえ無く、僕とサヤカの恋愛は始まった。告白は無かったが、付き合ってはいたのだと思う。休みを合わせ、デートをし、話し、食事をし、酒を飲み、そして。
それはそれで楽しく幸せな時間だったし、もちろん笑顔も浮かんではいたのだ。しかしお互い「好き」を確認することはしなかった。
「好き」という気持ちの決着をつけず、曖昧なまま付き合いは続いた。
僕とサヤカの恋愛は奇妙な距離感だったと思う。近いといえば近いし、遠いといえば遠い。
手を繋いでいるようでもあったし、指先しか触れていないようでもあった。
そんな状態で3ヶ月ほど付き合った頃から、少しずつ距離が離れていった。会う回数が減り、連絡が途絶えがちになり、連絡が取れても会話が続かなくなった。そして、気づけば連絡を取らないことが当たり前になった。
その後、サヤカがどうなったかは分からなかった。共通の友人もいなかった。
僕は、サヤカと明確に分かれていない、というモヤモヤとした感情を抱えていた。
曖昧に始まった恋愛は、別れすら曖昧だった。そんな別れ方だったからか、いつも意識の片隅にはずっとサヤカがいた。
何度か連絡を取ろう、と思ったこともある。しかしできなかった。どう声をかけていいかも分からず、保留を続けた結果、今に至る。
そんなサヤカからメッセージが来たのだ。何年ぶりかを考えることが難しいほどだ。無事に生きていて、幸せそうで僕は胸を撫で下ろす。
僕はサヤカに「おめでとう。幸運を祈るよ」とメールを返した。サヤカには幸せになってほしい。純粋にそう思う。
そしてようやく、サヤカとの恋愛に決着がついた。そんな気がした。
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