許嫁との修羅場

真音の声が思いのほか大きかったせいで,皆んなに僕と真音の聞こえてしまった。

真音の発言を聞いたクラスの奴らは、乃空が許嫁と宣言した時と、同様に皆んな愕然とした反応を示した。

この状況に追いつけていない皆んなは黙り込んでしまい、少しの間沈黙が続いた。その沈黙が続く中、隣の席からいきなり立ち上がる音がした。乃空は、僕の席に向かって近づいてきた。今から、真音の事について根掘り葉掘り聞かされると思った。だから、近づいてくる乃空を見てどう誤魔化すか必死に考えていた。


「ねぇー。あなたの名前を教えてくれませんか?」


乃空が話しかけたのは、僕では無く真音だった。真音は、いつもの能転気な感じは一切なく、真剣な面持ちで質問に答えた。


「私の名前は、逢詠 真音。」


「真音さん。単刀直入に聞くけど、楓希君の許嫁ってどう言う事なの?」


「どうも何も、私は、楓ちゃんの幼馴染であり許嫁なのっ!」


「あなたが、楓希君の許嫁ってあり得ないでしょ!だって私こそが、彼の許嫁なんだからっ!」


「んむむむっ...!」「んぬぬぬぬっ...!」


僕の目の前で、許嫁である二人が啀み合っている...僕が、仲裁して止めるべきなんだろうけど二人の圧が凄すぎて仲裁できそうにない...それに、教室内の空気は最悪だ。真音と乃空以外は、黙り込んでしまってただそれを眺めることしか出来ない状況だ。このままだと、一限が始まってもこの重たい空気が続いてしまう。

だから、この場から一旦離れるために二人の手首を掴んで教室から抜け出す事にした。


「二人とも、ちょっとこっち来て。」


「えっ...楓希君が私のことを引っ張ってくれてる...」


「ちょっと待ってよっ!ふうーちゃん、今から授業始まっちゃうよ〜!」


「皆んなに迷惑がかかるから、一旦教室から出るぞっ!」


真音は、いきなり教室から出ることに慌てている感じだった。それに対して乃空は、下を向いていて顔が見えなかったが頬が紅潮しているように見えた。

僕達は、教室から抜け出して誰もいないであろう屋上まで走った。屋上の扉を開けて周りを見渡して誰もいないことを確認した。今日の天気は、快晴の青空で雲一つない。今の季節は7月、熱中症になるかもしれないと思い日陰に移動して話す事にした。


「でっ...さっきの話に戻すけど、あなた。もしかして許嫁の意味を勘違いしてるんじゃないの?」


「してないわよっ!親と親が、勝手に結婚する人を決める事でしょ!あと、あなたって言うのやめて。私には、真音という名前があるの。」


「分かったわよ真音。確かに勘違いしているわけではなさそうね...私は、流石に勘違いなんてしてないから。お母さんに楓希君のこと聞かされてたしね。」


「えーっと、それはつまり...私たち二人とも楓ちゃんの許嫁なの?!」


「そ...そうなるわね...」


多分このままだと、二人の矛先は僕に来るだろう。誤魔化した方がいいのか、それとも真実を言うべきか。


「ねぇー楓ちゃん何か知らない?」


「し...知らないです...」


無理だ言えない...どうせ偽ろうが、本当のことを言おうが、どっちにしろ二人に尋問されるだけだ。だから、「知らない」と答えるのが僕にとって一番都合がいい。

その後、僕達は話すことが無くなってしまい黙り込んでしまった。

静寂に包まれた空気の中、僕のズボンのポケットに入っていたスマホが震えていた。スマホの液晶画面を見てみるとそこには、父さんから着信が来ていた。


「ごめん二人とも、父さんから電話だ。」


「出ていいよ。私、楓希君の電話が終わるの待ってるから。後、楓希君の親なら何か知ってると思うから聞いてみてね。」


「私も待ってるからっ!」


二人は、快く僕が電話に出ることを受け入れてくれた。こんなに優しい人達に知らないと嘘をついていることに罪悪感を感じてしまう...

真音と乃空から離れて、父さんの電話に出ると父さんは深刻そうな声音で話し始めた。


「楓希、今話せるか?授業中だったら後でかけ直すけど...」


「話せるけど、父さん手短にお願い。」


「分かった...と言いたいんだが、近くに真音ちゃんと乃空ちゃんはいるか?」


「真音と乃空ならすぐそこにいるけど、それがどうしたんだ?」


「丁度いい。それなら、二人にもこの通話が聞こえるようにしてくれ。」


「...どうしてもか?」


「どうしてもだ...。」


父さんは、真面目な声で僕の問い掛けに答えた。僕は、父さんに言われたように真音と乃空に近づいた。


「どうしたの楓ちゃん?電話終わったの?」


「いや終わってないよ...父さんが、二人にも伝えたいことがあるって言うから戻って来たんだ。」


「わ...私もなの楓希君?」


「そうだよ。乃空も一緒に。」


「私もってことは、許嫁の件よね。何を言われるのかしら?」


「それは、僕も聞かないと分からないよ。」


三人でスマホを囲む形で、父さんの話を聞く事にしたけど、一体何を言うつもりなんだ。二人が、許嫁になった理由に関してはまだ話していない。だから、ここでそのことは言わないでくれよ父さん。


「伝えたいことなんだが...乃空さんと真音ちゃんの両親とファミレスで話し合う事になった。」


「えっ...それって僕達も行く事になるのか?」


「そうだ...そして、今日の19時に会うことになってる。」


「はっ?!本当に言ってるのか?!」


「本当だ。」


いきなり過ぎる...それに、僕が予想していた以上の展開で怖い...もし、本当のことを乃空の家族と真音の家族の前で言うってなったら...

教室の時、以上に修羅場になるだろうな...

駄目だ。今、考えたところで僕にはどうすることも出来ない。この状況に乃空と真音は、何を思ってるのか気になる。視線をスマホから、ゆっくり二人に移した。すると二人は、残念そうにしていた。


「今聞きたかったな〜許嫁が二人いる理由...」


「そうだね。でも、楓ちゃんと少しでも長く一緒に入れるから良いや。」


「確かに。私も真音さんに同感。」


「そしたら、放課後暇だね〜。19時まで、何してよっか?」


「あの...転校して来たばっかりで校舎にないがあるのか分からないので教えてほしいです。」


「そうだったね。乃空ちゃん今日転校して来たばかりで、何も分からないよね。えーっと...それなら、私と楓ちゃんが案内してあげるっ!楓ちゃんも一緒に来てくれるよね?」


「僕は、良いけど部活はいいのか?」


「大丈夫だよ。だって、水曜と土曜はお休みだから。」


真音は、軽音楽部に入部している。一度だけしか軽音楽部の事について聞いたことがある。その内容は、部活にいるメンバー全員が女子ということだ。メンバー全員が女子ということに、少しだけ安心できる。僕達の関係が許嫁だとしても、知らない男子と真音や乃空が話をしていたら、不安な気持ちになってしまう。


「それなら放課後、二人で乃空のこと案内出来るな。」


「ありがとね。二人とも。」


乃空は、僕と真音に向かって初めて笑顔を浮かべた。乃空の自己紹介の時は、これからどうなるか心配だったけど真音とも少しだけ仲良くなれたみたいだし安心した。

放課後何をするか決めたし、次にすることは...


「もしかして今、授業中だったのか...?」


「そうだよ楓ちゃんっ!だから、早く教室に戻ろう!」


真音はいきなり、僕の腕に抱きついてきた。いつも教室内でで抱きついてくるけど、今回は、一人だけが見ている。真音の行動に怒っているのか、乃空を見ると頬を膨らませて僕の方を見ていた。


「わ...私もしていい?」


「えっ...それは、どういう...」


「えいっ!」


乃空は、真音と反対の腕に抱きついてきた。何が起きているのか僕は、理解できず乃空に聞こうとした。でも乃空を見ると、今にも爆発しそうなほど頬と耳が紅潮しきっていた。多分、真音に対抗心を抱いたのか、羞恥心を捨てて飛びついて来たんだと思う。


「あの〜二人とも...この状態のまま教室に戻ったら怒られるどころの問題じゃなくなるよ」


「そうだよね。あんまり怒られたくないし、離れましょうか。」


「そうね。私も離れるとしましょう。」


二人は、そう言ってるはずなのに一向に離れない。二人をみてると、また啀み合っていた。


「ねぇ〜乃空ちゃんから先に楓ちゃんの腕から離れてよー。」


「それは、こっちのセリフなんだけど。」


「んむむむむっ...」「んぬぬぬぬぬっ...」


二人が仲良くなれたと思ったのに、また振り出しに戻ってしまった...



...その後、僕の腕から離れるのに時間がかかり、後々先生からはこっ酷く叱られてしまった...

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許嫁は、幼馴染と転校生 夏帆宮 ツカサ @kahomiya213

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