VS怪盗グアバ 果汁に溺れる少女戦 真相編




[VS怪盗グアバ 果汁に溺れる少女戦 真相編]

 (※ヒントを先にお読みください)











 (※怪盗グアバの正体が明かされます)











 ピピピピピピとアラームが鳴った。



 日付が変わって、5月5日の午前2時55分。


 グアバは、私に招待状を送ってきた。

 ならば、案内しないなんてことはないだろう。




 案の定、




 

 





 ――





 私は決心して、銭湯の扉を勢いよく開く。




 ガラガラと乾いた音が鳴って、店の様子が目に飛び込んで来る。




 ビワお婆ちゃんは――いない。店内は無人だ。




 そのまま女湯の暖簾を潜る。勿論、ここも無人。




 ――でも、




 着替えが置いてある。

 私のではなない。




 触れてみると、ほんのりと温かい。

 当たり前だけど、相手も人間なのだ。




 私は服と下着を躊躇なく脱いで、怪盗グアバが使っている隣の籠に入れた。





 浴場の扉を開ける。





 中央に直径4メートルの円形のお風呂。





 湯船の最奥に、





 呑気にお湯に浸かっている。





 止まることなく、私は歩みを進める。





 そして、丁寧に掛け湯をして、湯船に浸かる。





 約4メートル先の怪盗は何も話さない。





 だから仕方なく、私は口を開く。





「――まずは暗号の答えから」





 声が震える。

 それをごまかすように話し続ける。





「前提として、不特定多数に向けた誰にでも解ける暗号という保証はどこにもありません。


 前回の暗号は、私だけにしか解けないものでした。


 そして、このハスカップは私の行きつけの秘湯です。今回も――という考えは自意識過剰ではないでしょう」





 最初から想定していたことである。


 決め手は、長い時間をかけてカシス君にをしたからだ。あれがきっかけになった。





「あの暗号……使われていたのはA、B、Cの三つのアルファベットだけでした。それはとても大きなポイントですよね。

 例えば、『Aがあ行を表す』みたいなタイプの暗号なら、もっと多様なアルファベットが使われるべきでしょう」





 三種類の何かが鍵。不特定多数には解けない。


 前置きはこれだけで充分だろう。



 ――では、答えに迫ろう。








「『Fップルパイ盗難事件』『Fラックチョーク消失事件』『F筒塔の殺人』。






 ――









 






「尤も、アルファベット順とするなら、頭のFは邪魔です。だから、『』という訳です」





 後は簡単だ。


 それぞれのタイトルの漢字を『分解』して、



 A アップルパイトウナンジケン

 B ブラックチョークショウシツジケン

 C チャツヅトウノサツジン



『A1』ならAの一文字目で『ア』。

『B2』ならBの二文字目で『ラ』。



 つまり、



『B9 A13 ヤ 三 C10 C7 オ B16 A9 B1 ロ』



 は、




『シ ン ヤ 三 ジ ノ オ ン ナ ブ ロ』




 である。





 ――5月5日。午前3時。深夜のスーパー銭湯。



「先に身体を洗って、待っていてくれたのですね」



 私は、目の前の怪盗に語りかける。



「何もかもを綺麗に落とした素っ裸の怪盗。紛れもなく、それが貴方の正体ってわけです」




 怪盗グアバ。




「率直な感想を言うと、悔しさよりも気恥ずかしさがあります」




 その正体は、








「まさか裸で向かい合う日が来るとは思いませんでしたよ――








 カシス君はにやりと笑い、裸を見られていることも気にせず、うーんと伸びをする。

 丸みを帯びた身体に、膨らみを持つ胸。それは彼が――いや、彼女が女であることの証明だった。




 いや――それよりも、




 怪盗グアバの正体がカシス君だったことよりも、カシス君の正体が――その変装をしていない顔が――




「…………」

「…………」




 女同士、裸で向かい合う。


 探偵と怪盗の対峙と言った所だろうか。ミカンちゃんから借りたミステリの中の彼らは、もっと恰好良いクライマックスシーンを迎えていた気もするが、これこそが私達に相応しい最後と言えた。



 目の前にいるのは、先月出会ったばかりの同級生。それはミカンちゃんに紹介された女の子で、実はカシス君として私の前に現れていて、挙句の果てに世間を騒がす怪盗だった。その褐色の肌も、女子にしては逞しい筋肉も、いつも部室で見慣れたものだ。


 私はこの後の会話で全ての関係が壊れることを承知の上で、覚悟を決めた。








「――








 かすれた声が、銭湯に響く。



「答え合わせを始めましょう。まずは私の推理に耳を傾けてください」



 ゆっくりと深呼吸し、相手の化けの皮を剥がす推理を始める。




「リンゴちゃんに対して疑いを抱いたのは、少し前の話です。今考えてみると遅すぎました。部活に夢中になっていて、こんな簡単なことにも気付かなかった自分が心底恥ずかしく思います」




 それは誰にだってわかるような、推理とも言えない『前提』だ。



 つまり――



「『名門』であるF苑女学園に、あんな馬鹿な子が存在すること自体がおかしい。

 F推会のゲームに着いて行けないこと自体に違和感はありません。けれど、ゲームのルールや作中で明記されていることすら理解していない発言には違和感を抱くべきでした。

 よくよく考えると過剰過ぎる演技です。失態ではなく、『お遊び』としてのヒントのようなものだったのですね? 失礼を承知で言うと、ゲームに夢中でリンゴちゃんのことが眼中になかったのです」


 緊迫していた空気が少しだけ和らいだ。



「けれど、今ならリンゴちゃんの発言の真意も理解できます。

 最初は4月11日、金曜日。そう、私達が初めてゲームをした日です。

 ザクロ先輩が出題した『Fアップルパイ盗難事件』にミカンちゃんと三人で挑戦しました。

 思い返してみれば、ザクロ先輩が出題したあの日の時点で、既におかしな点は沢山ありました」



 ――Fアップルパイ盗難事件。

 レモン先生のアップルパイを奪った犯人は誰か。

 現場は密室のような状況で、一見すると、どう考えても容疑者六人に犯行は不可能だった。


 その真相は、作中のミカンちゃんが校長先生であるという斜め上からの一撃で、『ルールA』と『意外な犯人』が共存するという矛盾の破壊をいきなり見せつけられた。



 けれど――



「議論開始直後に一番に口を開いたのがリンゴちゃんでした」




 ――レモンっちが犯人とかどうッスか! 自作自演って奴ッス!




「リンゴちゃんはレモン先生を疑っていました。言うまでもなく、あれはルールAすら失念しているからこそ出てくる発言です。


 けれど、貴方が本当にルールAに縛られていなかったのであれば――あんなにも怪しいキウイ校長を疑わなかったのは、あまりにも都合が良過ぎます。


 まるで全てを知った上でゲームの流れを調整するご都合主義的キャラクター。貴方はまさにそれを演じていた。ザクロ先輩の原稿を一読しただけで答えに辿り着き、開幕早々、私とミカンちゃんにヒントを出したのです。


 あれが偶然のことではないと、今ならわかります。振り返ってみると、リンゴちゃんがその手の発言をしたのは一度や二度ではありませんでした。

 『Fアップルパイ盗難事件』に限っても、時間切れ間際にもう一つ大きなヒントがありました」




 ――職員室からF推会の部室までの道程って一つじゃないッスよね?




「あれ自体は、物語と現実の世界を混同しているお馬鹿な発言ですが、あの時点で現実のミカンちゃんと作中のミカンちゃんの存在を混同していたのは私達の方でした。

 貴方にとってあれは、私達に向けた最後のヒントだったのでしょう?


 いえ、むしろ――校舎の構造に触れたと言うことは、『別解』の方のヒントも与えてくれていたのでしょうか? きっと、そう解釈しても過大評価ではないのでしょう」

「…………」



「……いや、もしかすると」


 返事がないので、一方的に話し続ける。


「――もしかするとゲームを盛り上げる為のヒントである以上に、私達五人全員への挑発だったのかも知れない。今はそう考えています。

 きっとザクロ先輩もスモモ先輩もメロン先輩も、そしてミカンちゃんでさえも、あの時点ではその挑発に気付きもしなかった。いやはや、まったく――」



 小さく嘆息してから続ける。



「――まったく本当に、その挑発に気付くのが遅すぎました。

 結局、私が貴方の挑発とその正体に気付いたのは、、金曜日の下校直前。

 『Fブラックチョーク消失事件』を巡る攻防が終わり、少し冷静になった後の話でした。

 厳密にはその時点ではまだ半信半疑で、すぐ目の前に危険が迫っているという確信と、その相手に何を知られているのかという確認が必要でした。


 だから私は、ああいった形で貴方に挑戦しました。結果的には恐れていたほどではありませんでしたが、先手を打たれたのは確かです。その後も気付いていないフリをして、同じような形で反撃をしたいという気持ちは理解できるでしょう?」



「…………」






「聞いてますか? ねぇ、? 




 ――














 ――









 目の前で、ずっと一方的に話していた彼女が――の正体を暴いた。





「……あはは、本当に手強いッスね」





 と、調鹿





 





「まったく――」



 と、私は先程の彼女と同じように小さく嘆息してから続ける。








「――なんでが、に正体を暴かれなきゃならないんッスか――







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