VS怪盗グアバ ドリアンダイヤ戦 エピローグ
六回も読んだ小説だ。内容だって、ほとんど暗記している。
一話から三話までの三部構成の、おふざけミステリ。
一話では登場人物と舞台が一通り紹介され、最後に殺人事件が起こる。
二話では、慟哭と疑心暗鬼が伝染していく中、警察と共に探偵が奮闘し、アリバイや証拠を集めていく。
そして最後には、推理するのに必要な情報が出揃ったというアナウンスと共に、作者から挑戦状が叩きつけられる。
そして解答編である三話では、探偵が突然、『僕は魔法使いです!』と言い出して、そのまま逮捕されていく。
けれど、ミカンちゃんによれば、第三話の内容は私が知るものとは全く別物らしい。
犯人は冴えないOLで――ミカンちゃんにとっては駄作だけれど――きちんと解けるようにできている本格ミステリには違いないとのことだった。
つまり?
いや、怪盗グアバの言いたいことはわかる。
――知の箱の中、最も意外な犯人が眠る、合作ミステリ。
今私が手にしているのは、この小説の一話と二話を書いた作者と、三話を書き変えた怪盗グアバによる合作なのだ。
私はミカンちゃんから内容を聞くという反則を犯してしまったけれど、『意外な犯人』とはつまり、この後に、三話が改変されていない本物を読んだ時の衝撃のことなのだろう。
リメイクでも改訂版でも重版分でもなんでもない、全く同じ小説。
この間読んだばかりで、内容だって覚えている小説。
いったいどんな馬鹿が、『犯人は誰だろう?』なんて予想しながら再読するのか。
展開が変わっていて、犯人すら違うなんて、想像できる訳がない。
だから私は、確認作業的に斜め読みした末に、そんな衝撃を味わう予定だったのだ。
作者の仕掛けならいくらでも疑う。疑って疑って疑いまくるのがミステリだ。
けれど、作者の仕掛けではないのであれば、それは頭脳戦の意識の外にある。
――ああ、確かにそうだ。
これほどまでにメタ的な騙しが加わった、『意外』という言葉の意味が相応し過ぎる犯人像に、
作者以外が罠を仕掛けたこの悪質なミステリに、
誰がどうやって勝てるというのだろうか。
もはや怪盗グアバの暗号の正当性を認めるしかない。
間違いなくこれは――『最も意外な犯人』だ。
4月21日。月曜日。
挑戦状を叩きつけられたら、最後まで付き合うのが礼儀だろう。
この日は学園を休み、宝探しに専念した。
とはいえ、宝の場所は既に検討がついている。
怪盗グアバが改変した小説の元の作品を確認すると、犯人のOLは実在する山奥の土中へ殺人の証拠を隠していた。
埋めた場所が具体的に描写されており、尚且つウチの近所なのは勿論偶然ではないだろう。
怪盗グアバは最後まで私個人に挑戦してきたのだ。
結論から言うと、ドリアンダイヤは私の予想通り、スーツケースに入れられた状態で土中から出てきた。
舗装された小さな山だからと侮っていたが、発見した頃には既に辺りが暗くなっていた。
ドリアンダイヤを警察に届け、事情を説明し、帰宅したのは午後10時。
学園を休んだ甲斐はあった1日だったが、発見時の心境は想像以上に虚しく、怪盗グアバに勝ったという気は全くしなかった。ただ遊ばれたと言う印象が拭えない。
悔しくて悔しくて、カシス君のお父さんから与えられるはずだった賞金の受け取りを拒否し、その後のマスコミの取材も全て断り、報道するなら、偶然事件を解決した匿名の女子高生として新聞の片隅にひっそりと載せてもらうように懇願した。
マスコミの方はみなガッカリとしていたが、気を遣っている余裕はなかった。
そのような事後処理と精神的疲労のせいで欠席が続き、結局、私の心が落ち着きを取り戻したのは木曜日の夜になってからだった。
入学早々4日連続で欠席したことは反省しなければならないが、おかげで明日からは、またいつもの私でF推会の部室へ行くことができるだろう。
――さあ、ミカンちゃんの『本物のミステリ』に挑戦しよう。
[第四話【F茶筒塔の殺人】へ続く]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。