神様から種をもらった
長月瓦礫
神様から種をもらった
神様から種をもらった。
それを土に埋めて水をあげなさい。
神様は嫌いだけど、私は従った。
晴れの日はよく輝くように祈りなさい。
雨の日はよく伸びるように祈りなさい。
神様はそう言った。
あの子がいなくなったからだ。
あの子がいなくなってから、もう3日が過ぎた。
神様は言った。冬は試練の季節だ。
長い冬を乗り越えるために、私は従った。
あの子は花が好きだったから、毎日花をそえている。
種を植えた土に花を添えている。
いつか同じ空の上へ行くのかな。
いつか同じ土の中に埋められるのかな。
いつか同じ石の下で眠るのかな。
あの子を思いながら水をかけた。
あの子はいつも綺麗な花畑へ連れて行ってくれた。
白のワンピースを私はいつも追いかけていた。
何もかもが虹色に染まっていた。
私だけモノクロに取り残されていた。
それが嫌だったから、花を折って束にした。
あの子は花束を笑ってくれた。
切り取った七色を花瓶に挿して飾った。
雨の日も花畑の中にいるみたい。
あの子は笑っていた。
毎日、毎日、水をやる。
緑の芽が出てずんずん伸びて蕾が膨らむ。
冬の嵐は蝋燭の火を揺らす。
雪をかき分けて、朝一番に様子を見に行く。
特に変わったところはない。
あの子は雪も好きだった。
雪だるまに花を挿し、飾り付けていた。
かわいい仲間がたくさんできて、喜んでいた。
未だ来ない春を思いながら、今日を過ごす。
りんごを薄く切って、花びらみたいに並べてケーキを焼いた。
虹色のケーキができたら、あの子は喜ぶだろうか。
あの子は今日も戻ってこない。
あの子がいるから、毎日が楽しかった。
今日は机に突っ伏して眠っていた。待つのも飽きてしまった。
あの子の笑顔を思い浮かべながら、夢を見ていた。
あの子が扉を叩いている夢だった。
私は目を開けて、扉を開けた。
その音で私は目覚めた。本当に誰かが扉を叩いていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
あの子が帰ってきた。私は嬉しくなって抱きしめた。
春が来た。花畑が七色に染まる。
白のワンピースが揺れる。
私たちはあの花畑で笑っている。
あの子は私の横で眠っている。
このまま時がとまってしまえばいいのに。
そうすれば、この綺麗な顔をずっと眺めていられるのに。
りんごのケーキはまだ残っている。
神様から種をもらった 長月瓦礫 @debrisbottle00
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