ケダモノ(本能的な求め合い、暗闇で二人きり)


 近くにあった包帯で視界を塞がれ、手を引かれ、そのまま引きずられるように何処かへ連れていかれる。

 手も足も拘束されている訳じゃ無いのに、振り払う気は一切起きない。 


 ある程度あった包帯の隙間からの光が消え、自分が暗い場所にいる事がわかる。


「亮ちゃん」


 自分のすぐ後ろから禊の声がする。それと同時にパタンと扉を閉める音がする。


「亮ちゃん」


 次の呼びかけと同時に彼女が俺の背を抱きしめる。別人のように豹変した禊の抱擁は痛く締め付けるようなものだった。


「禊……」


 自分の中で何か沸々と黒いものがこみ上げてくる。自身を包む暗黒の中に滲み溢れていくような、そんな、止められない感情が。


「禊……駄目だ……!」


 嚙み殺すように言ったつもりだった。

 だが、俺の耳に入ったのは悦び上ずっていた。


「やーだ」


 禊の声色が、まさしくハートが似合うような色情に媚びた、俺の煽情をそそる、いやらしく愛おしい。


 顔をうずめているのか、背中に擦り付けられる感触が広がる。

 俺の煽情が限界まで張り詰めているのがわかる。苦しい。

 今すぐ、今すぐ禊が欲しい。


「前に進んで?」


 その言葉に押されるように、一歩、二歩。

 そのたびに、押し付けられる禊の体と擦れる感触がたまらない。


 その感触に気を取られたのか前に合ったものに躓き、倒れた。


 俺たちを受け止めたのは柔らかいものだった。

 感触的に、いつものベッド。


 それを理解すると同時に、禊が俺の身体の上に跨る。


「私、考えたの」


 暗く何も見えていない中、何かがそこら中に落ちるパサッという乾いた音がする。


「私なりの愛って何だろうって」


 ゆっくりと前に体重を掛けるように、流れるように禊の両手が脇腹、脇、肩、腕、手へと沿わされる。

 俺への情報が聴覚と触覚だけであるということが、禊が俺から一切離れていないと言う事が煽情を高める。


「亮ちゃんからもらったものだけじゃ、のじゃないただのお返し」


 次の瞬間、すかさず俺の両手は何かを巻き付けられ、硬い物に拘束される。ベッドのパイプだと気づいたのはその金属的な冷たさだった。


「亮ちゃんは愛と同時に罰を求めちゃうんだよね?」


 されるがままの俺に全体重を前へ降ろす禊。肌と肌が合わさる温かさが俺の煽情を狂わせる。

 禊の心音が俺の胸を通じて伝わる。

 反対に、俺の心音も彼女の柔らかい小さな胸を通じている。


「じゃあさ、あたしの愛は」


 激しく高鳴るその肌を感じた時、ギシギシとベッドが軋む。

 俺の腕が千切れんばかりに拘束から逃れようとしている。


 禊は俺のズボンに手を掛ける。


「鞭をあげない」


 温かく湿った禊のそこが俺の煽情へと降ろされると同時、俺は腕の布を引きちぎった。

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異常性癖恋愛短編「ケダモノの傷」 西城文岳 @NishishiroBunngaku

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