いりゅみなしよん

@grrrrr

いりゅみなしよん



 これは私のつくり話です。だから、そこで私は死ぬのです。



 ここに、エヴァという小さな女の子がいます。彼女は睥睨するようにこちらを見て、そのくせ裸で、煽情的サジェスティヴ、或いは蠱惑的コケットリーな挙措で、凝然としています。彼女の存在する写真からは毒々しく頽廃的な馨香けいこうと共に、世界を震駭させるほどまでの魔力が秘められています。しかし、彼女は私ではありません。


 ここに、ロザリアという眠り姫がいます。彼女は二年の生涯の中を今もなお彷徨さまよい、帰るべく両親の胸を探して、小さく瞬きをしようとします。不死でありながら不老ではなかったことによって醜い姿になってしまったのはティトノスですが、不老である彼女の美しい姿には、あけぼのの女神も嫉妬するのではないでしょうか。しかし、彼女は私ではありません。


 ここに、ユージェニ―という才色兼備の少女がいます。彼女こそロトの娘に相応ふさわしい情婦でありながら、間然とするところのない智慧と哲学を以て、母を憎み、父と交わり、ほしいままにその美しさを振り撒きます。彼女が涙を流すその時までが、少女という記号的存在の完成のようにさえ感じてしまいます。しかし、彼女は私ではありません。


 ここに、いとけき少女を永遠のひとえに封じ込めた、ある大学の数学教師がいます。彼の秘密の写真スタジオは「硝子の部屋」と言ったそうですが、そこはヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」にも増して美しい場所だったのではないかと、私は考えてしまいます。そして、その場所に連れてこられて、彼にポーズを取らされたアリスという少女もまた、生ある宝石のようです。しかし、彼女は私ではありません。


 私は小さな惡の華を懐に忍ばせながら、今日まで生きてきました。その短い生の中で、今挙げたこれらの少女達は、みんな一度は私であり、もう私ではないのでした。



「ねぇ、なんで、そんなことばっかり知ってるの?」



 私の前に顕れたその少女は――ああ、ちぬった彼女の生首を並べ終えた、その時です!――そう言いながら、口の周りについている乾いた血をぺろと舐めました。

 私はおどろきませんでした。ただ物悲しそうに、こう言っただけでした。


「私はね、貴女の父親になりたいの」


 すると、ヨカナーンの彼女はまたもや嫣然えんぜんと、こう言いました。


「じゃあ、わたしのママは地球なんだね」


「ええ、そういうことになるわね」


 暫く、沈黙がありました。不図ふと、私は自分のお腹を見てみると、そこからは百尋がはみ出していました。ああ、そうだったのですね。私は解る事が出来ました。これは、なんてきたなくて、美しいのでしょう。


 ゴシキヒワドリを喰ベえると、セラフィータが恍惚うっとりと訊ねました。


「ねぇ、パパ?」


「なぁに?」


「わたし、今、とっても幸せ」




 これは私のつくり話です。私がきたら、おしまいです。

 だから、そこで私は死ぬのです。

 

 それでは、おやすみなさい。私が殺した娘たち。



                     Les Illuminations



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