後悔の終着点

ライカ

卒業式の日

『好きです!』


朝の会前の教室。小学生5年生の当時、学校に転校してきたばかりの女の子が、僕に告白してきた。

それは、僕にとってあまりにも重く、衝撃的な出来事だった。

だからなのか、今はなぜその後にあんなことを言ってしまったのか、覚えていない。

今にして思うと、彼女のその言葉で恥ずかしくなり、またパニックになってしまったがゆえに、僕は彼女にあんなことを、言ってしまったのだろう。


『え、、好きじゃない』


こっから先はもう覚えてない。彼女がどんな顔をしていたのか、周りのみんながどんなふうに見ていたのか、覚えてない。





その日から、僕は彼女に学校の放課後や休日に遊びに誘われるようになった。

だか、一度も二人だけでデートをしたことはない。いつも大人数で出かけた。

行く場所は、近所の映画館、ボーリング場、ショッピングモールなどいろいろだった。

いつも彼女は、満面の笑みで楽しそうだった。今まで休日、放課後で一人で過ごしていた僕にとっても、その時は、刺激的でとても楽しかったのを覚えている。



そして、僕は彼女と段々と親しくなっていった。

初めて女性と親しくなった気がする。



僕は彼女のことが好きになった。


いつのまにか、毎日、僕は彼女を見つめるようになってしまった。

それと同時に、僕は彼女を振ったことを後悔した。

彼女を振ったあの日から5ヶ月後には、僕の後悔は、膨れ上がり、僕にのしかかっている。

今も変わらず僕にのしかかっている。


『一度だけ過去を変えるならいつ?』と聞かれたら、じいちゃんが事故で死んだ時ではなく、『あの日の朝』と即答できるぐらいに、僕は後悔してしまった。


それでも行動が出来なかったのは、僕がただ単に臆病で弱虫で悲観的でいたからだ。


いざ彼女に言おうとしても結局行動する直前で急に怖くなる。

『 え、なんで?、今更?、もう貴方には飽きた、とか言われて振られたどうしよう』

と思って結局なにもできない。

そして

『なんでしないだ!なんでだよ』

こんな感じのことを思って後悔する。

いつもそうだった。


僕はなにも出来なかった。






彼女を振って、今までで一番楽しかった怒涛の小学生5年が終わり、6年生になったころ。

彼女から僕に対しての誘いが無くなった。

最初の頃はそんなに気にしなかった。

が、夏には彼女との関わりがもう半年もないことにひどく寂しさを感じていた。

挙句の果てには彼女との楽しかった日々を毎日思い返す。まだ付き合ってもいないのにデートについて妄想する。

こんなことでは当然受験勉強も身に付かず

大変無駄な日々を送っていた。

あの日以前の生活に戻ってしまった。

僕の上に重くのしかかっているものは、僕に彼女に対しての行動全てをさせないぐらいに重くのしかかっていた。

僕は彼女を見ないよう努力した。

彼女を見ていると、あの日のこと、してしまったこと、楽しかった日々、それらを無理やり思い出させてきて僕を苦しめるからだ。







そんな感じでなにもせずに今に至る。

今日は卒業式だ。

とは言っても大半の友人は僕と同じ中学校に入学するのでみんな寂しさは感じていない。

小学生から中学生になる儀式みたいなものだとみんな感じている。


だが僕は違う。

彼女はこの学校から離れるそうだ、いつも見ないようにしていたが、同じクラスのため嫌でも情報はくる。

僕は今日彼女と久しぶりに会話をする。

会話の内容は決めている。

彼女に謝って、僕の思いを伝えるんだ!


僕はいつもよりも早く学校に行った。

彼女がくるのを待つ。


今日は天気も良く気温も心地よい、外からの小鳥のさえずりが教室に響いている、

最初は響いているのが聴こえていたが、時間が経つにつれて段々と聞こえなくなった。


『お!優じゃんお前今日は朝早いな!どうしたんだよ!』


『いや、なんとなく』


『そうか』


いつも朝早くからくるクラスメイトが教室に入って来た。そいつは荷物を教室に置いて別の教室にいる友人の方へと向かって行った。

僕は彼がきた瞬間ドキッとした。彼女がもう来たのかと一瞬期待してしまった。

それからはずっとクラスメイトが教室に入るたびに心揺さぶられていく。


『おはよう!今日は早いね優』


『え、ああ、おはよう』





『おはよう!』


『う、えあ、あ、おはよう』


段々と時間は過ぎてゆく。

彼女がいつも登校する時間になった。


教室の外から上履きのゴムと床の擦れる音が聞こえる。

教室には彼女以外揃っていて、そこら中に話し声、机がずれる音、上履きの擦れる音が無造作につくられている。


教室のドアが開く。

彼女が教室に入ってきた。僕はドアから少し離れたところで待っていたので、彼女の元へ行こうと足を動かそうとした。

『よし、やっと来てくれた!、よし!いくぞ!』


しかし足は動かない。

また今までのように急に怖くなり、恥ずかしくなり、僕はその場から動かずにいた。


彼女はそんな僕を置いて、気にしないで、僕の横を通って友人の元へと行った。


『みんな、おはよう。』

彼女はそう言って友人との最後の時間を楽しもうとしている。


僕は立ち尽くしていていた

『またか、』


教室に教師が来て最後の朝の会を始めようとした。


『おい!優早く席に着け!』

僕はそう言われてみんながもう席に着いていたのに気づいた。


『おい!優なにボケっとしてるんだよ!』

僕が席に向かう時に言われた。そいつは僕の心境なんて知らないだろうけど、深く刺さる。




無力感と絶望感で最後の朝の会の内容なんて頭に入らないで終わった


そしてついに卒業式が始まった。みんな緊張しているなか僕だけが、絶望感、無力感だけを感じて式に望んでいる。


式では幸いにも僕が発言する瞬間は名前を呼ばれた時しかないのでそこだけ絶望感と無力感に取り込まれているのを隠せばいい、


だが、僕の右前には彼女がいる。

僕は横に顔を向けて彼女を見ないようにすることはできない。だから僕は常に彼女の後ろ姿を見るしかなく、今までで一番の苦痛を味わっている。


気づけばもう僕の名前が呼ばれる番、


『12番 小秋、涼太』

『はい!』

『13番 河野、竜太』

『はい!』

『14番 小山 優』

『はっ、はい』


僕が変な返事をしたせいで横のやつが若干

驚いていた。


卒業式も退場の時になった。この時にはもう無力感、絶望感は薄まり、一列に並んで退場の用意をする。





退場して、教室に向かう廊下を歩く。

段々と絶望感、無力感ではなく焦りが出てきた。

『このままでいいのか? 僕は優奈が好きなのに、もう会えないのに、このままでいいのか?』


そんな考えているともう教室に着いた。

みんな席について思い思いの最後の思い出作りをしていた。

僕も友人に話しかけられて適当に話した。

しかし目は常に彼女のことを見ている。


気づけば僕は友人にやることがあると伝え、

彼女の方へ向かった。


『優奈、話したいことがある、』

僕はようやく正気になったがもう後戻りはできないと感じ、腹を一瞬でくくった。

『来てくれ』

僕は驚く彼女を無視して細い腕を無理やり掴み廊下へ連れ出した。


僕にはなにも見えなかった。

周りの連中がどんなふうに僕たちを見ていたのか、彼女がどんな顔をしていたのか

見えてもないし、知りたくもなかった。



そして廊下で二人きりになる。


『優奈 僕は、、、、君が好きだ。』


さんざん脳内でシミュレーションしても結局直感で出たことしか言えなかった。



僕は急に彼女の顔が見れなくなり、右手を前にだし、頭を下げて彼女の顔を見ないようにした。


僕は満足だった。頭を下げ彼女の返事を待つ間、僕はやっと体が軽くなった気がした。


多分、ずっと言えなかった思いが言えて

軽くなったのかもしれない。


卒業式の日に僕は後悔から卒業した。



外は僕の心のように晴れ晴れとしていた。









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