3
暖炉の薪のはぜる音が、閉ざされた部屋に満ちる静寂を、
柔らかな寝台に、なにもまとわない躰を
(今日は、いつもより、すこし、荒い……?)
指をつかうのもそこそこに、博士はぼくの中に入ってきた。博士の手が、唇が、舌が、牙が、ぼくの頬に、首に、肩に、胸に、脚のはざまに、ひとつひとつ蒔いてきた快楽の種が、ひといきに芽吹き、
「っ……ん……」
声を呑みこむ。ぼくは躰をわずかにそらして、上手に息を吐いてみせる。呼吸の仕方も、よがりかたも、ずっと上手くなれたと、思う。
「大分、おぼえてきたようだね」
「はい」
ぼくは微笑む。ぼくに覆い被さる博士の顔は見えなくて、降り注ぐ声に温度はなかったけれど、言葉ひとつで、ぼくは、こんなにも報われる。
「……そろそろ、使えるか……」
「え……?」
ぼくが聞き返すのと、博士が
(これで、いい)
これでいい。このすべてを、ぼくは許容している。いや、享受している。この痛みも、熱も、すべて、ぼくのものだ。このひとの心が、ぼくに注がれているという、しるしだ。
ぼくの命を肯定する、
(博士)
呼びたかった。でも、呼べなかった。
(梍博士)
ぼくに名はない。このひとは、ぼくを抱くあいだ、一度もぼくを呼んだことがない。
(さいかち、はかせ)
繰り返し、くりかえし、このひとのつくりだす波にゆられながら。
(どうか、ぼくを)
吐き出せない声が、言葉が、ぼくの中に降り積もっていく。すべてを押し潰す雪のように。冷ややかな、白さで。
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