#2 メビウスの螺旋
1
冬にさしかかる街は
この
緞帳を引いて、空を閉ざしたら、夜の幕開け。
ぼくの躰に、華奢な影がおちる。小柄だけれど、少年型のぼくよりは背が高い。おとなになったばかりの、男性の体だ。
すこしかさついた薄い皮膚が、刹那、ぼくの唇に触れて、かすかな吐息とともに、ざらざらとした熱がぬるりとぼくの内側にさしこまれる。牙の輪郭をたしかめるようになぞる尖った舌。ぬくもりを宿しながら、それはぼくの熱を吸っていく。このひとの温度は、ぼくよりも低い。
「呼吸の仕方は教えたはずだよ」
「……っ、ごめんなさ……い……」
気づいたこのひとが、すっと、ぼくの唇から自分のそれを離す。微かに
「つづけて、ください」
目を閉じて、このひとの温度を、熱を、迎える。首から肩をなぞり、胸へと
「……っ、や……ぁ……っ」
抑えきれない、声がこぼれる。だめだ、抑えなきゃ。このひとは、声をあげることを好まない。ふるえる唇をかみしめる。口の中に血の味が
「さすがに馴染むのは早くなったね」
絶え間なく押し寄せる刺激の波。奔流の中で、ぼくは投げかけられる声に
――愛して、ください。
その一言を、声とともに喉の奥へと沈めたまま。
――ぼくの命は、正しいですか?
ぼくは問いつづける。この躰で、問いつづける。そして、このひとの体が、ぼくに答えを注ぐ。ぼくの命の正しさを、証明しつづけてくれる。
――あなたの心が、ぼくの命だ。
目を閉じて、このひとを迎えいれる。これが、ぼくの需要。ぼくの命に課せられた義務。美しいと
由一〇――これが、ぼくの型番だ。ぼくの前につくられた
(博士)
ゆれながら、ぼくは胸の奥で、このひとを、呼ぶ。
(
ぼくを生み、生かしつづける、ただひとりの主の名を。
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