第128話 ……まぁ、もちろん負けませんけどね?
「今日のテーマは……唐揚げです!!」
明里の掛け声によって、とうとう料理勝負? が幕を開ける。
憎悪に満ちた男どもの
「「おーーー!!」」
男を喜ばせる激アツ展開。その要素は一体なんなのか?
俺は今一度、辺りを見回し考える。
シンプルな本棚に、無駄に参考書の積まれた勉強机……見慣れた光景だが、明らかに見慣れないものもある。
緊張した面持ちで、床に敷かれたクッションに膝を曲げる笹森さん。やる気に満ちた表情で拳を突き上げる明里。
さらには、今日のテーマでもある料理のお題として挙げられた唐揚げ……!! なんて男心をくすぐる甘美な響き……!!
「キッチンは好きに使ってくれていいからな」
「なんでテメェが仕切ったんだ」
とぼけた顔をつくって「あ、ばれた?」とかほざいてる隣の男に目で殺意を送りながら、明里たちに向き直る。
結局優也も、この前の約束通り優也も
「まぁでも本当に好きに使っていいから。俺も2人の料理楽しみだし、そこは遠慮なくやってくれ」
「うん、ありがと。……流石に前みたいなのにはならない……はずだから」
言葉尻が萎んでいるのが不安でたまらないが、明里から今日の料理勝負を持ち出してたし、まぁそんなに心配しなくてもよさそうだ。うん、絶対そう。
「私も……明里さんには負けません!! 絶対勝ちます!!」
「おぉ……すごい意気込みだ……!!」
「はっはっは! こりゃ期待できそうだな!!」
いつの間にか明里と同じように立ち上がって拳を突き上げる笹森さんを見るに、どうやら緊張も解けたみたいだ。
「お、奏ちゃんやる気だね〜? でも事前に練習を重ねてきた私に勝てるかな?」
「むぅっ……! ずるいですよ、明里さん……まぁ、もちろん負けませんけどね?」
明里のやつ、大人げねぇ……この間唐突に今日開催することを決めたせいで、笹森さんが準備不足だと知っておいて……
まぁ、この前の卵焼きのことを考えるたら、これくらいのハンデはくれてやるべきかもしれないが。
優也なんて唐揚げ食って死にかけてたし……
フフフ……と誇らしげな笑みを浮かべる明里に対抗するように不敵な笑みを浮かべる笹森さん。
両者が見合って……というか睨み合って、今回の料理勝負のゴングが鳴り響いた。
◆
「……」
「……」
2人が台所に立って10分くらいが経っただろうか。
美少女の料理を心待ちにする男2人は、曲げた膝に手を乗せたまま動かない。いや、動けない。
「2人ともすげー真剣だな……」
「あぁ……こっからでも溢れる気迫がひしひしと伝わってくるぜ……!!」
リビングのドアからうっすらと覗く2人の後ろ姿は、忙しなく動き回っている。
時々棚に手を伸ばし、包丁を片手にタンタン……と心地いい音を立てる。
笹森さんの料理するところなんて初めて見るけど、慣れた手つきで動きに無駄がない……ように見える。
料理なんてまともにしたことないから無駄があるとかないとかは正直分かんないけど。でも少なくとも迷いはないように見える。
明里は、時々手が止まるような時があっても、すぐに動きを再開して、一つ一つ確かめるように丁寧な手つきでこなしていく。
俺らに弁当をくれた後も、ずいぶん練習したのが伝わってきて、もうそれだけできょうの料理勝負には意味があるように思えてくる。
「しかしお前んちの台所広いなー」
俺が2人の様子を眺めていると、同じようにドアの向こうに目をやっていた優也が口を開いた。
「あー、まぁな。普段は場所とってるだけな気もしてるが……今回は助かったな」
幸い、
元々、父さんが減量中に自分の食事を作りたかったらしく、こんなふうな作りになった。
母さんと俺が食べる分、父さんが食べる分と2回に分けて料理をするのは時間がかかるからな。
そんなことを優也に話しながら、適当に時間を潰して料理が出来上がるのを待つ。
手伝いたい気持ちもあるが、俺が行ったところで何もできないし、そもそも勝負だからそれは平等じゃない。
やはり俺にできることは2人が料理しているところ……改めエプロン姿を目に焼き付けることだけだ。
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