第127話 ……まだあのこと覚えてるかな?
優也と熱い決意? を交わした翌日。
「んじゃあ、文化祭の話し合い始まるぞー。学級委員、後は任せた」
力尽きた、と言わんばかりに無気力と化した松中先生は、教卓横の椅子へと体を預けた。
いやまだ授業開始2分も経ってないんだけど。しかもあんた「んじゃあ〜」の前「号令ー」しか喋ってないだろうが。
……とまぁ、昨日一皮剥けた大人の俺はこのツッコミを心にとどめておく。
「よーし! じゃあまず、我が2ーBの出し物を決めるぞー! なんか案がある奴は、どんどん発言してくれ!! あ、チサコさんは黒板にメモお願い!」
……と、文化祭に似つかわしくない、くだらない事を考えていたら、学級委員が教卓へと出てきたようだ。
副委員長であるチサコさんにそう指示を飛ばし、意見を募る。
だいたいこうゆうのは、なかなか手を上げたがらないものだが……
「カズキ!! 俺に任せろ!!」
そう大きな声を出す斉藤は、委員長……改めカズキに手を挙げた。
そう、実はこのクラスの学級委員はカズキだったりする。
カズキは特段真面目というわけではないが、明るい性格と話しやすい雰囲気もあってか、意外とこうゆうのに向いてるんだよな……
この2人によって話し合いが円滑に進み出すと言うのもなんだか変だが、むしろ学級委員がカズキなのが好条件なのかもしれない。
「やっぱたこ焼きだろ!! 定番だが安定と信頼がある!!」
「いや待て斉藤。すぐに思いつくと言う事は、他のクラスもそれは同じだ。ここは意外な方向から――」
時々意見を出し、それに対しての改善点を述べる……思いの外話し合いは順調に進んでいった。
◆
「よし! じゃあクラスの出し物はたこ焼きで決定だ!!」
結局かよ!!!! たこ焼きがだめだから話し合いしてたのに!?
「ははは……結局たこ焼きなったな」
「この話し合いは何だったんだ……?」
優也も同じことを思ったんだろう。前の席から身を乗り出し、半ばあきれ気味に笑う。
「よーし、思いの外早く終わったな。お前らよくやった」
「……」
心なしか、松中先生の顔に生気が戻っている気がする。まぁ、話し合い30分足らずで終わったからな。
「じゃあ、後は時間までゆっくりしてていいぞ。今日はこれで最後だから、時間なったらすぐ帰れるようにしとけよー」
松中先生のその言葉で、クラス中が大歓声に包まれる。
なんだかんだ、いい人だよなー。
そんなことを思いながら、前の席に座る男に向き直る。
「文化祭といえば……奏ちゃんのクラスは何するんだろうな?」
「あー、たしかに。メイド喫茶とか……コスプレ喫茶とか……あとはメイド喫茶とかか?」
「ふははっ! 欲望透けすぎだろ!! まぁでも、だといいけどな!!」
膝上でヒラヒラと揺れるフリルのスカート……胸元が見えそうで見えないあの感じ……もしかしたらチャイナ服とか、一周回って私服とか……たまんねぇな。
「……っと――ちょっと雄二?」
「……え?」
妄想の世界から引き戻されたのは、そんな声が聞こえた時だった。
なんだ? と思って振り返ると、俺の隣には……
「うおっ!? 明里!?」
「えっ、そんな驚く? なんか集中してたけど……何か考えてたの?」
「あー……特には?」
もうそう答えるしかなかった。明里を好きだと自覚した今、笹森さんのコスプレが〜なんて言えねぇ。てかそうでなくても女子にこんなこと言えるわけがない。
必死に笑いを堪えてる薄情な親友を横目に、何とかスルーしてくれという願いを込めて明里の反応を待つ。
「そう? まぁいいや。ところで雄二……まだあのこと覚えてるかな?」
俺の反応を窺うような眼差しで、そんなことを訊いてきた。
なんだっけ? 何か約束……?
「あのこと?」
「うん。料理の……」
料理……明里の、料理……
「あーー!! 明里と笹森さんが俺の家で料理作ってくれるっていう話か!!」
どうやらこれが正解だったみたいだ。
嬉しそうに「そうそう!!」と言って頷く明里を見て、そう確信した。
美少女2人の手作り料理……楽しみな反面、明里の料理への不安も若干……でも、明里からこの話をするってことは、あれからも練習を重ねて、自信がついたってことなんだろうな。
明里の成長した料理を口にできることを考えると、やっぱりそれも楽しみに入るんだろう。
「……」
……ところで。俺の放った言葉が正解だった反面、声のボリュームは大不正解だったようだ。
「ゆっくりしていいぞ」この言葉を始まりに、クラス中が賑わっていた。……はずだったのに。
今は誰一人口を開いていない。完全なる沈黙だ。
「たしか家庭部が今日は活動日だから、家庭科室の包丁借りれるよな……よし」
「雄二ぃぃ……!! テメェその話、説明しないで帰れると思うなよぉぉ……!!!!」
「クラスの風紀を見出すとはなぁぁ……!! 学級委員として、見逃せねぇよなぁ?」
「……」
クラスに沸き起こった憎悪の感情を全て体現したかのような言葉が至る所から聞こえてきた。
俺、文化祭行けるかな……?
俺の悲鳴で再びできた沈黙の空間にヒビを入れたのは、ほんの数秒後だった。
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