第125話 お前だよ


「それで? どうしたの、相談って」


 放課後になって、朝3人で歩いた道を今度は逆に歩いていく。

 だんだん周りを歩く人も少なくなってきた頃、隣を歩く明里が声をあげた。

 

 ここに来るまでも色々話はしたが、相談と聞いて気を遣ったんだろうな。実際、大勢の前で話すことではないから助かる。


「……すまん。実は相談じゃなくて、聞きたいことがあっただけなんだ」


 先に断っておかなければ。嘘をついて付き合わせたこと、そして……これから聞くことが、明里を傷つけるだろうこと。


 状況がいまいち掴めていない様子できょとんとした表情を浮かべる明里に目を向ける。


 これから俺が聞こうとしていることが、デリカシーに欠けることはよく分かってる。


 それでも……


 息を大きく吸い込み、ゆっくりと口を開く。


「――優也の告白……明里は、なんて言ったんだ?」


 考える、もしくは了承した、それか……


 意を決して問いかけた声でわずかに目を見開いた明里は、すぐに真面目な顔に戻った。


「……断ったよ」


「断った……?」


 ということは、優也が俺に嘘をついていた……?


「うん。だってほら……」


「あ、あぁ……そうだよな」


 何かを言いたげにしたままで、視線だけをこちらに向け、口を結ぶ。


 明里の言いたいことは分かっている。


 それこそが、明里を傷つけると思った理由でもあるから。


 俺が、明里のされた告白について踏み込む……それはつまり、好きな人から、お前のこと好きな奴いるんだろ? と煽られているような。そんな感じだと思う。


「ごめんな。変なこと聞いて」


「ううん、いいよ。でもどうしたの? 急にこんなこと……」


「気持ちの整理……かな」


 自分の中で1番しっくりきた答えを返し、その後は何気ない会話をしながら、分かれ道の交差点まで2人で歩いた。





「……で、俺を呼び出したわけか」


 空はすっかり暗く、散りばめられた星だけがところどころで光っている。月は大きく欠け、今日はほとんど見ることはできない。


「悪いな。こんな夜に」


「いや、かまわねぇぞ? お前が俺を呼んだってことは、俺にも話さなきゃいけねぇことがあるってことだ」


 そう言って優也は、おもむろにブランコへ腰掛けた。


「?……そうか」


 最後のはよく意味が分からなかったが、とりあえず嫌な思いはしていないみたいだ。


 明里から話を聞いた俺は家に着いてから、優也にメッセージを送った。


『急で悪いけど、今日の夜ちょっと話せないか?』


 集合場所は、俺たちの家からそこそこ近く、共通で認識のある場所としてこの公園を選んだ。


 ほんとに急だったから、了解を貰えるか分からなかったが……嫌な顔ひとつせずに来てくれた親友には感謝だな。


「……なにか、気持ちの変化があったんだろ?」


「……!!」


 まるで、今から俺が話すことが分かっているかのような口ぶりに、思わず口を閉ざされる。


 だが……それでは、優也をここに呼んだ意味がない。


「明里……お前の告白、断ったんだってな」


「……あぁ。私は雄二が好きだから、ごめんってな。はっきり言われたよ」


「じゃあなんで……」


 保留だなんて、嘘をついたんだ? そう口にするのは優也の次の言葉によって憚られた。


「試したかった……それが1番だな」


「試す……?」


「お前を好きだと言った明里が、他の男の好意に心が揺れているのだとしたら……お前はどう感じるんだろうと思ってな」


「……」


 話が見えないな。なんで俺にそんなことを? いやそもそも、俺が何かを感じるってどうゆう意味だ?

 

「悪いな、こんな性格の悪いことしちまって」


 頭を上げ、黙り込んでしまった俺に淡々と謝罪の意を示す。


「俺は、明里が好きだ」


 そして、今度はそんな決意を口にする。


 顔を上げて見えたその目は、暗い星空に光る星のように、強い光を放っているように見える。


「……」


「だから俺は明里に振り向いてもらいたい」


「……あぁ」


 やっと出た言葉は、そんな相打ちだけだった。


 唇が乾いてなかなか開かない感覚が伝わってくる。

 いやそれよりも、今の優也には口を挟ませないような、そんな雰囲気がある。


「でもそれは、それだけじゃだめだ。俺は……戦いたいんだよ」


「……戦う? ……誰とだよ」


 優也はブランコから腰を上げ、ザッザッという砂音を立てながら、ゆっくりと俺の目を見据えている。


「お前だよ」


 低く響いた優也の声だけが、静まり返った公園に留まった。

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