第122話 うそうそうそ!?
ミオ……さん? ……誰? そんな名前、私は聞いたことない。
中西先輩と一緒にいる時も、話題に上がったことはないと思う。
先輩の口から突如出た、全く聞き覚えのない名前に困惑していると、カバンを握っているはずの手からだんだんと力が抜けていく感覚に襲われた。
「ん?」
そして気がついたのは、そんな先輩の声を聞いた時だった。
……って! まずいまずい!! 聞いてるのバレる!!
せかせかと地面に横たわるカバンを抱き抱え、バレてないかな……? と息を潜める。
声を出したってことは、少なからず先輩も違和感を感じたってことだ。もし、こっちにきてしまったら……
そんな一抹の、けれど果てしなく大きな不安が体を支配し、血の気が引いていくのを感じる。
「あー、そうそう。懐かしいよな。あの頃はお前、"この先生きててあれ以上の悲しみはない"とか言ってたっけ」
……と、中西先輩が会話を再開するまで、かなりの時間が流れたような気がした。
でも幸い、中西先輩は気づかなかったみたいで、先輩もまた中西先輩に向き直った。
「忘れろそんなこと!! いつまで覚えてんだよ!?」
その声を聞いた瞬間、崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。
はうぁぁ……!! よかったぁ……
会話を再開した先輩が、再びこちらに目を向けることはないと思い、安堵の声を漏らす。もちろん心の中で。
「どうしたんだこんなところで?」なんて聞かれたら、答えようがなかった。
せいぜい、正直に「先輩を見かけたので話したくて!! そしたら私の知らない女の子の名前が出てきたので、詳しく聞こうと思いました!!」なんて言うしかない。
でもそんなこと言えるわけないから、やっぱり答えようがないな。
「"俺、やっぱモテねーのかなぁ……優也みたいになれたらなぁ……"くっ……ふっ、あははっ……!!」
わっ、ちょっと似てる。
中西先輩のモノマネ、誇張してるところはあるけど、特徴捉えてる。
ぷっ……っと、笑っちゃだめだ。今笑ったら今度こそバレる。ほんとにだめだ。
そう言い聞かせながら、カバンを膝の上に置いて両手を口に添える。
「だまれぇぇぇぇ!!」
あ、怒った。なまじ似てるばっかりに、余計頭にきたんだろうなぁ……
てか、先輩モテないの? そんなこともないと思うけど……なんなら1番カッコいい……ような気もする……かもしれない……と思う時もある……かな?
なんてことを自分で考えているうちに、だんだん顔が熱くなってきたのを感じ、慌てて両手を口から離す。
「あははっ、まぁ良いじゃねぇか。今は奏ちゃんがいるんだし」
先輩たちが話している後ろで、コンビニの外壁に背を預けながらそんな忙しないことをしていたら、またもや気になる発言が。
私……? 私がいるってどうゆう……
「……そうだな」
私の疑問なんて気づかないと言った具合に、先輩は納得したようにそう声を出した。
まぁ、口にしてないんだから、気づかれないのは当然なんだけど。
「いつの間にかお前、昔の話しなくなったろ?」
「……」
先輩は無言だ。その空いた間だけでは、その感情を汲み取ることはできない。
「奏ちゃんと出会って、好きになって。それだけ前を見れてるってことだ。これからだって、お前が前を向けば問題ないはずだ」
……え。
奏ちゃんと出会って……?
好きになって……?
……え。
うそうそうそ!? わたっ、私!?
先輩の好きな人って……私!?
驚愕の事実。予想だにしなかった結果を知ってしまった私の耳に、その後の先輩たちのやりとりは頭に入ってこなかった。
我に帰ったのは、カバンが手からずり落ちた時だった。
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