第120話 奏ちゃんとなんかあったのか?
「雄二ー、今日は奏ちゃんと一緒じゃないのか?」
笹森さんと久々に昼を食べた放課後。
机に並べられた教科書やら筆入れやらを鞄にしまいながらこちらに振り向き、優也がそう声をかけてきた。
「あぁ、まぁ……」
そう答えた俺の声が自然と小さくなった理由は明白だ。
最近は笹森さんの方から一緒に帰るよう誘ってくれることも多かったのだが、今日は用事があるとかで断られたのだ。
昼間のこともあるし、やっぱり気になっちまうな……
「じゃあ一緒に帰ろーぜ。久々だしいいだろ?」
「おう、そうだな。帰るか」
特に断る理由もないため、優也の誘いを了承する。
最近は2人で帰ることも無くなってきたからって言うのも理由の一つだが。
◆
「あ、ちょっとコンビニ寄ってこーぜ」
学校を離れて少し歩いた頃。
他愛もない会話を所々に挟みながら隣を歩いていた優也が、少し先に見えたコンビニを指差した。
「おぉ、いいな。俺もなんか食いもん買おーかな」
放課後にこうゆう所寄ると、無性に買い食いしたくなるんだよな。ま、気分転換にもなるし、たまにはいいだろ。
夏より日が短くなった茜色の空。その下に佇むコンビニを見て、そんなことを思った。
◆
「何買った?」
「ハッシュポテト」
「ははっ、安いしうまいもんなー」
先程レジの揚げ物コーナーで買ったハッシュポテトの入れられた袋をピリピリと破きながら、そんな会話を優也とする。
「だんだん涼しくなってきたよなー」
「だな。九月が過ぎればすぐ秋が来て、さらに1ヶ月もすればすぐ冬だ。はえーな」
「ははっ、違いねぇ」
優也は、アメリカンドックにケチャップとマヨネーズの入った容器をパキッと言わせながら、豪快に笑う。
と言っても、周りに人がいる分、いつもよりは控えめなんだろうが。
「で、奏ちゃんとなんかあったのか?」
「え? なんでそうなんだよ」
袋を破き終え、ようやくハッシュポテトを口に運ぼうかと思った矢先、その動きを止められた。
どういうことだ? という視線を優也に向け、その説明を待つ。
「なんで、ってお前。昼過ぎくらいから目に見えて口数も減ってたし。昼っていえば、奏ちゃんと一緒に食堂行った後だろ? じゃあ、それが原因なんじゃないかと思ったわけよ」
「……お前は妙に鋭いな……」
おちゃらけた雰囲気の時もあれば、こうゆう勘も鋭い。こう見えて意外と、人のこと見てんだよなぁ。
「はははっ、まあな! んで、どうなんよ?」
ひとしきり笑った後、話を戻すように、わずかに真剣な声色をつくる。
「いや……」
たしたことじゃねぇよ、そう言いかけたが、優也の真っ直ぐにこちらを見つめる目を見て、それは憚られた。
「……」
いつもなら、ちょっとした相談くらいなら優也にするし、逆に俺が聞くこともある。
でも今回のは……明里が絡んでるからな。
言いにくい……けど。
優也は俺が無言になっても、黙って話の続きを待っている。
「……お前が聞いてくれるってんなら、気は使わないぞ?」
閉ざしかけた口をもう一度こじ開け、真っ直ぐな目を見つめ返す。
「おう、当たり前だ。そんなのはそれなりに仲の良い友達か、目上の人にだけ使えば良い。俺には必要ないだろ?」
優也はわずかに口角を上げ、そんなことをほざきやがる。
高校入学以来の付き合いだが、まるで幼なじみかのような言い分だな。
でも、まぁ……
「……そうだな」
俺がそう答えると、期待していた答えが返ってきたからか、優也はさらに口角を上げる。
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