第119話 ……好きだから
「奏〜、今日も雄二さんと帰る感じ〜?」
放課後。
カバンに物をしまって帰る準備をしてたら、もう帰る準備を終えたのか、カバンを肩に下げた優佳に声をかけられた。
「んー、いや今日はちょっと寄りたい所があって……」
優佳の言う通り、先輩を好きだと自覚してからは、先輩と2人で帰ることも多くなった。
けど今日は……なんだか1人で帰りたい気分。
申し訳ないと思いながらも、優佳にそんな嘘をついてしまった。
「え〜? せっかく部活休みだから一緒に帰ろうと思ったんだけどな〜」
「ごめん!! でもありがと!」
嘘をついて断ってしまった罪悪感と、わざわざ誘ってくれた感謝をこめた両手を合わせて優佳に頭を下げる。
「もうしょうがないな〜、ゆるす!! あはははっ」
「ありがとう……!! また今度、一緒に帰ろ? 今度は、優佳の部活終わるまで待ってるから」
「おっ、言ったな〜? ちゃんと待つんだぞ!! 帰りに買い食いするから!!」
「あははっ、わかったわかった」
優佳の優しさを肌で感じ、感謝と罪悪感が深くなる、変な感覚になりながらも、手を振って教室を出る。
◆
「…………」
先輩の言ってる好きな人……いったい誰なんだろう。
優佳に別れを告げてから放課後の通学路に繰り出した私は、昼に先輩が言っていたことを考える。
……いや、本当はもっと前。明里さんに、先輩に好きな人がいるって聞いた時から頭にはあった。
ただその時は、私も先輩のことを好きかどうか定かではなかったから、あまり考えないようにしていたのかもしれない。
でも今は……
「……好きだから」
ふいに、そんな言葉がこぼれた。
周りには、私と同じ制服を着た人たちが大勢歩いている。
そのことを思い出し、はっとして周りを見るけれど、幸い、誰も私のつぶやきには気づいていないみたい。
ほっとして胸を撫で下ろす。
あぶないあぶない……ただの独り言ならまだしも、今のはまずい。
誰かに聞かれたら、変な勘違いをされても文句は言えないし。
でも、考えても仕方のないことなのかもしれないな……
先輩が誰を好きなのか……そんなの、見当もつかない。
強いて言うなら、明里さんだと思っていた。
明里さんはかわいいし、優しいし、やっぱりかわいいし。
先輩といる時間も長いから。私が先輩と出会うよりも1年も前から、2人は出会ってるんだから。
……でも、明里さんの告白を、先輩は受け入れなかった。
それはやっぱり……私の知らないところで、先輩はとっくに恋してるってこと?
「……」
それはなんか……ちょっと嫌だな。
そんなことが自然と頭に思い浮かぶ。
あれ? やっぱり私、明里さんに言われたみたいに独占欲強かったり……?
いやいや!! そんなことない!! 先輩のこと好きなんだから、これくらい当然だよ!!
「……あっ」
そんなことをずっと考えながら、人の少なくなってきた小道を歩いていたら、ぼーっとして霞みかけていた視界に、はっきりと知っている人物が映る。
「先輩……」
まさに視界が霞むほど考えさせられていた、先輩だ。
コンビニの前で中西先輩と2人でなにか……揚げ物? みたいなのを片手に話している様子を見て、足を止める。
ここからだと、先輩たちの後ろ姿しか見えないから、あんまりよく見えないけど……
どうしよう……声、かけた方いいかな。
1人で帰りたい気分だったけど、やっぱり目の前に先輩がいると、一緒に歩きたいし、一緒に同じ話をして、同じように笑い合いたい。
そう思いながら、止めた足をもう一度動かして、先輩たちのいる、その近くまで歩みを進めた。
まだあんまり聞こえないけど、2人ともなんか話をしてるみたい。
「えっ……?」
会話が聞こえるくらいまで近づいたところで、私はまた足を止める。
今度はもう、さっきみたいに再び動かすことはできないかもしれない。
だって……たしかに先輩はこう口にした。
「あー、ミオか。まぁかわいいとは思うけど……やっぱ俺にはむりだろ」
だれ……? 聞いたことのない、私の知らない名前だった。
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