第118話 なにか考え事ですか?
ポスター争奪戦から週が替わった月曜日。
「先輩! お昼一緒にどうですか?」
甘い言葉と眩しいくらいの笑顔を、教室の入り口から注ぎ込む天使を見つけた。
「すぐ行きます!!」
休み時間に買っていたパンをそっとカバンにしまいながら、即答する。
◆
「食堂……なんだかずいぶん久しぶりに感じますね」
「たしかに。笹森さんと来たのは、前に4人で来て以来だもんね」
あれからもうだいぶ経つね、なんて話をしながら、注文したものが来るのを4人掛けの椅子に向かい合わせに座りながら待つ。
結局、悩んだ末に今日もカツ丼を頼んだけど……まぁ、少し寒くなってきたし、ちょうどいいだろ。
そういや前は……明里が食べてた月見うどんもらったんだっけ。いや……食べさせてもらった、か。
「……先輩?」
「……ん、あぁ、ごめんごめん」
「なにか考え事ですか? 珍しいですね」
「……」
俺の印象なんかおかしくない? なんて疑問はさておき。
真っ直ぐに、だけど不思議そうに、俺を見る笹森さんを見つめ返す。
「……前は、4人だったなー、って」
「……そうですね。まぁ、たまには2人で来るのもいんじゃないですか? 私はけっこう楽しいですよ」
「笹森さん……」
そう言ってもらえると、悩みなんて吹き飛ぶくらい嬉しい。やっぱり、嬉しい。
「……あの、違ったらすいません」
そんなことを考えていたら、おそるおそる、と言った様子で笹森さんが口を開いた。
「うん?」
「もしかして、明里さんのことで悩んでます?」
「うん!?」
嘘だろなんで分かった!?
なにかなー? なんて油断して聞いてたら、とんでもなく図星なんだけど!?
「いや、前は4人で〜、なんて話をしだしたので」
心を……読めるのか……?
「……まぁ」
俺がようやく肯定の言葉を口にすると、笹森さんは周りを気にするように視線を近くで食事を取っている人たちに向け……
「先輩、明里さんに告白されたんですよね……?」
おそるおそる、そんなことを訊いてきた。
告白……この様子だと、直接明里から聞いたんだろうな。
「……うん。夏休みに」
だとしたら、ここで誤魔化すようなことを言うのは変だ。
笹森さんに合わせるように、小声でそう返す。
「……明里さんから聞きました。先輩には、その……他に好きな人がいるって」
……なるほど。明里は、俺が断った理由をそういうふうに伝えてるのか。
俺が笹森さんのことを好きだ、なんてことを教えると、ややこしいことになるからな。
「……うん」
なんかもう、これ告白じゃね? 本人の前で言ってるし。
「やっぱり……そうなんですね……」
ん? なんか、すごい落ち込んでるような……
分からない。なんでかは分からないが、笹森さんの様子がおかしい。
食券番号が呼ばれて、料理を運んできて。食べ始めてからも、笹森さんの様子は変わらない。
どこか寂しげな表情を浮かべ、最後の質問をしてから、一向に口を開こうとせず、何かを思い悩んでいるような雰囲気だ。
「……?」
もしかして、俺の態度が悪かったか? 明里のことを考えてる時に明里の話題を出されて、自分でも無意識のうちに変な態度をとっていたのか?
そんなことを考えて焦るが、今の俺にはどうしようもない。ここはそっとしておくのが正解だと思う。
そう思い直し、時折熱そうにそばをふーふーする笹森さんをみることで密かに癒されながら、食事を進めた。
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