第116話 あとで……ね?
「ぐぅっ……!! この野郎……!! だが仕方ないか……この笑顔、俺が救わねば……!!」
「そうだ!! 200円の美少女プロマイドなんて売ってねぇぞ? 決断しろ!!」
群がる非モテ軍団VS俺のタイトルマッチはまだ続いていた。あだちジム宣伝ポスターというタイトルを巡って。
もはや、昼休みの喧騒なんてレベルではないくらい騒がしい教室になっていた。
と、そんなざわめきの中にいた俺は、気づかなかったのだ。
ここにいる誰よりも、殺気だったオーラを放ち、近づいてくる人物に。
「
男の群れをかき分けてきた明里は、両手に拳をつくり、地面を叩きつけるようにぶんぶん振っている。
「す、すまん……つい」
「あ、秋山さん……」
「斉藤くんも、これは雄二の家で使うものだから……ね?」
ごめんね? 分かってくれる? と言った具合に手と手を合わせる明里をその目に収めた斉藤といったら。
「わっかりましたぁぁ!! お前らぁ!! 秋山さんに迷惑だろうが早く散れぇぇ!!」
手のひらが回りながらロケットパンチみたいに飛んでいくんじゃないかってほどだ。
しかし効果はあったのか、斉藤の一声で、群がっていた男たちは渋々自分の席に戻っていった。
丁寧なことに、一人一人帰り際に俺を睨みながら。
怖すぎる……父さんのジムでもっとちゃんと筋トレしようかな……
23人の男に、恐怖を覚えた瞬間だった。
「……で、なんで雄二は家で使うはずのポスターをここで売ろうとしてるの? ん?」
男どもが去った後。優也と俺の間に入るようにして仁王立ちをする明里。
その視線は、はっきりと俺を見据えていた。
言ってごらん? 怒んないから。そんなニュアンスが聞いて取れる。
絶対怒られるやつだ、これ。
「……ちょっと……魔が差して……」
「ふーん? ま、お菓子ももらっちゃったし、そんな気にしてないんだけどね。あはは」
明里は、緊張間の抜けた爽やかな表情で笑い出す。
「勘弁してくれよ……コンパスでおでこ刺されるかと思った」
「どんな想像してんの!? しないよそんなこと!!」
なんだそうだったのか。怯えて損したぜ。
「なぁなぁ。ちょっと」
「ん? どしたの?」
明里を挟んだ前の席で、静かに様子を伺っていた優也が、そう呼びかける。
「やっぱりこれ、一枚貰っちゃだめか?」
こいつそんなに欲しいのかよ!!
「いや、う〜ん……みんなに断っちゃったし、やっぱり宣伝以外であんまり広められるのはちょっと……」
だよなぁ、やっぱり。そりゃ恥ずかしいし、周りの目も気になるか。
……って、クラス中に広めようとしていた俺の言えることでもないけど。
しょんぼりと下を向く優也に、申し訳なさそうにそう言う明里を見て、そんな事を考える。
これはしょうがない、と思って明里は歩き出した。
……と思ったのだが。
明里は、優也の席の前で歩みを止め、軽くしゃがみ込む。
その明るい茶色の髪を耳元でかきあげ、薄ピンク色の、柔らかそうな唇を耳元に近づける。
「優也。あとで……ね? こっそりあげるから」
優也が軽く頷いたのを見た明里は、また歩みを進める。
本当に一瞬の出来事で、周りにいる奴も気がついていないんじゃないだろうか。
ただ後ろにいた俺だけが、その言葉を聞いた。
いつの間にこんな……前はこんなふうに話してるとこなんて見た事なかったのに……
告白……保留してんだよな。
……まさかもう、答えを返したのか?
少し遠くで、明里が席に着く音が耳に入るまで、そんな、俺の恋には関係のないはずのことを考え込んでいた。
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