第109話 先輩……そろそろ……
「あっ……んっ!! んんっ……!!」
細く華奢な二の腕から汗を滴り落とし、その腕と同じくらいか細い声が漏れる。
「んっ、うぅ〜〜っ……!! これは思ったより……恥ずかしいですね……!!」
苦しそうに声をあげ、なんとかこの思いを伝えようと声を絞り出しているのが分かる。
「2人とも笑顔が引き攣ってきたよー」
そんな可愛いような可哀想なような女の子2人に、俺は非情とも取れる言葉をかける。
横を向きながら正面を覗き込むような姿勢をとり、ダンベルを持った腕を後ろに回している明里と笹森さん。
俺は今、その2人にカメラを向けている。
この役を買って出たのは、やはり合法的に美少女2人の魅惑的な姿を凝視できるからだろう。
もう1個の理由としては、父さんが我慢できずにベンチプレスを始めたことだな。
さっきから、無言で何キロあんのか分かんねぇバーベルを上げ下げしてる。
まぁ、静かだから構わないが。
しかしこのポーズ……ダンベルを持たせるのはふざけてるかとも思ったが、こうしてみると「一緒に筋トレ、しない?」とでも言われているかのような幸せな気持ちになる。
「いいよいいよー。可愛いよー」
「わ、分かりましたから……!! できれば静かに撮ってくれると……」
「でもちょっと落ち着きがないように見えるかな? 次で最後にするから頑張ってー」
「あっ、えっと……す、すみません……!! 頑張ります……!!」
そう言って戸惑いながらも、笑顔の横顔を見せてくれた笹森さんをパシャリ。
次いで、後ろ手に回したダンベルをぷるぷる震わせている、明里もパシャリ。
「……よし! おっけー!!」
「や、やっと終わった……」
「2キロでもかなり重い……」
2人とも一仕事終えたぜ! って顔をしているが……
「じゃあ次は、こんな感じのポーズで」
まだまだ撮影はこれからだ。俺の眠りしカメラの手腕が光りそうな予感。
「まだやるの……」ともはや疑問符すらついていないようなつぶやきを残し、明里が俺の開いた写真集のページを覗き込む。
「……まさか、これやるの……?」
その顔に浮かべた色は期待か絶望か。消えいるような声を絞り出した明里に、俺は力強く頷く。
多分10割10分10厘絶望だな。鋭い殺気が肌の細胞を伝ってきているのを感じる。これが鳥肌ってやつか。
◆
「こ、こんな感じ……ですかね……? ちょっと短パンの隙間に風が……」
「ち、違ってもやり直しなんて受け付けないんだから……!!」
黒色の衝撃吸収マットを敷き詰めた床に腰を下ろし、伸ばした脚を大きく広げる。
いわゆる柔軟体操のような格好で、触ればそのまま吸い込まれてしまうんじゃないかというくらいに白く端正な脚を小刻みに震えさせている。
そのままでは手持ち無沙汰となる両手には、軽めのダンベルを握りしめている。
「おにーさん、 今から筋トレとか……どう?」なんて言われてる気分。
「ぐはぁぁっっ!!」
悩殺。……そうか、俺は死んだのか。
そう実感できるほどに、目の前の2人は可愛かった。
人間、本当に心動かされた時って、頭空っぽになるんだな……
仰向けで空を見つめながら、そんな事を考えるのが精一杯だ。
「先輩……そろそろ……」
「雄二……もう、むり……!!」
気持ちを落ち着かせていたころ。今日一消え入りそうな声が耳を伝わる。
「……え? あ……」
起き上がった時にはもう遅い。
2人とも、軽く息を荒げながら、膝を曲げて手を床についていた。
もう、魅惑のポーズはとっていなかった。
「なんて事だ……カメラ撮ってねぇ……」
俺はまたシャッターチャンスを逃したのか……!?
今度は真っ黒に染まった床を見つめ続ける。
「……ごめんだけど、あのポーズは結構キツいから、別のにしてもらえると……」
だよなぁ!! くそ!!
明里の言葉を聞いて、俺は黒い床に吸い込まれた。
ここから、俺のタイムリープが始まる。
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