第110話 じゃあ、また学校でね
「ふむふむ……いいじゃないか!! よく撮れてるぞ」
「それは何より……」
そう簡単にタイムリープするはずも無く、俺はその後も黙々と撮影を続け、同じタイミングで筋トレを終えた父さんに撮った写真を見せていた。
なんかタイムリープのトリガーみたいなのが必要なんだろうか。いやそれよりも俺の間の悪さを治す方法を調べないと。
「ホームページにあげて、家の前にポスター貼って……こりゃ色んな人に見てもらえそうだなぁ!! 2人とも、今日は本当にありがとう!!」
「いえいえ……なんだかんだ結構楽しかったですし!!」
「はい。自分がホームページとかに載るのはちょっと恥ずかしいですけど……見てみたい気もするし……また機会があればよろしくお願いします!!」
「がははははっ!! それはよかった!! ……おっ、そうだ。2人とも、ちょっと待っててくれるか?」
なんだろうね? と顔を見合わせる明里と笹森さんをおいて、父さんはジムのドアを開けてのっしのっしという音を響かせる。
防音もぶち抜く筋肉の塊よ。父さんの体は一体どうなってんだ?
「……はぁ」
「……先輩、もしかして、まださっきのこと考えてるんですか?」
どこか呆れ気味に、笹森さんが俺の心を読む。
「そりゃそうだよ!! 一度ならず、二度までも……!! あんな笑顔でかわいい写真なんてもう撮れない……!!」
モデルとはいえ、カメラの前で笑顔を見せてくれたのだ。かわいさがどんどん乗積していた。
「……まぁ、その……笑顔なら、また見れる……と思いますよ……?」
「え? それって……」
「先輩といるのは結構楽しいので。気づいたら笑ってるなんてことも……あっ、いや、これは……」
笹森さん……!! 俺といるのが……!!
「ちょっ、ちょっと先輩? 大丈夫ですか? 急に俯いて……」
まさか人にこんな事を思ってもらえるなんて……!! しかも、それが好きな人だと……!?
中学生の片思い時代の俺に教えてやりたい。いや、今も片思いではあるんだけど、これは間違いなく前進だろう。
「うっ……くぅっ……」
こんな事を言ってもらえるくらいには頑張れてたのかな? なんて事を思うと、涙が止まらない。
「えっ……ちょっ、先輩? 泣いてるんですか……!?」
少し引き気味の笹森さんの目をまっすぐ見て、俺は今の気持ちを伝える。
「ありがとう、笹森さん。俺、これからも笹森さんのこといっぱい笑わせるよ。そして、頑張っていっぱい写真も撮る」
「そこは頑張らなくてもいいですけど……まぁ、話半分に期待しておきます」
笹森さんが俺への期待を膨らませた時。
今まで笹森さんの隣で成り行きを眺めていた明里が口を開く。
「……ねぇねぇ、奏ちゃん?」
「な、なんですか……ちょっと……! にまにましすぎですよ……!!」
「あはは〜、にまにまって!! なんかその表現かわいいかも」
「わかる」
「なんでですか……!! ……からかわないでくださいよ」
笹森さんは、膝に乗せた手をぎゅっと握り込みながら、そんな弱々しい声を絞り出す。
やっぱりからかいがいが……あっ、攻めがいがある。
そんな気持ちで微笑ましく笹森さんを眺めていた時。
「すまんすまん、2人とも待たせちゃったね」
ぎぃっ……とドアを開け、父さんがジムの中に帰ってきた。
「今母さん家にいないんだけど、これみんなにどうぞって」
そう言って父さんの太い腕を通して2人に手渡されたのは、菓子折りの入った紙袋だ。
「えっ、いいんですか!?」
「すみません、わざわざ……」
「はっはっは! いいんだいいんだ!! こんなに手伝ってもらったんだしな!!」
偉そうに言ってるけど、それ用意したの母さんだろ。
まぁ、今はしこたま気分がいいから言わないでおいてやるが。
「「ありがとうございます!!」」
2人とも、無邪気に喜んで……かわいいなぁ、まったく。
「じゃあ、雄二。2人を送っていきなさい」
2人が楽しそうに「お菓子、なにかな?」なんて会話をしているのを微笑ましそうに見届けた父さんが、俺に向き直ってそんな提案を……
「あ、いやいいですよ。家、結構近いので」
……したのだが、その提案は明里のそんな言葉によって却下された。
「いや、俺は構わないぞ? 近いならなおさら……」
「いや、本当にいいって!! 奏ちゃんもいるし、まだ明るいし」
「そうか……?」
やけに頑なだな……明里なら、承諾してくれると思ったが……まぁ、それは自意識過剰なのかもな。
俺を好きだって……まぁ、そうゆう時もあるよな。
「……じゃあ、気をつけてな」
「うん。じゃあ、また学校でね」
そう返事をした後、笹森さんと一緒に父さんにも一声かけた明里は、2人でジムを後にした。
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