第107話 な、なんでそれを……!?


「では! これから全筋トレーニーの憧れるようなポスターを作る!!」


「「おー!!」」


 コップに注いだオレンジジュースを持って帰ってきた父さんの掛け声によって、遂にポスター撮影会が始まってしまった。


「でも具体的にどんな写真撮るんだ? ってか、今更だけどこうゆうのって、筋肉モリモリの人とかがモデルになるもんじゃないのか?」


 絞りに絞った自慢の肉体がカメラのレンズに照らされ、うっすらと輝きを放つ……


 そんなのがジムのポスターとしては想像できる。


「ふっ……息子よ。お前は何も分かっていない」


「じゃあどうなんだよ?」


 やれやれ、といったように手をかかげて首を振る父さんに、俺は続けて問いかける。


「今や筋肉に需要はない!!!!」


「とんでもねぇこといいやがったな!?」


 ジムの経営者が1番言っちゃいけないことだろ!! 

 

 謎のやり切った感を出しながらモストマスキュラーをかます父さんを前に、俺は息を荒げることしかできない。


 言動と行動が噛み合ってねぇ……


「あはは……でもじゃあ、他に理由が……?」


「……む。その通りだ。さすが息子とは違って感が鋭い!!」


「おい待てどうゆう意味だ」


 笹森さんに満面の笑みを向ける父さんに、俺との対応の差について問い立てる。


「ふむ……お前は筋骨隆々の男のいる所と、奏さんや明里さんのような美少女のいる所……どっちに行きたい?」


「美少女のいる所だろ」


 愚問だな。この問いは頭まで持っていく必要もない。


「ふむ。即答なのはこの際無視するとして、まぁそうだろう? 別にお前に限らず、大多数の人間がそうだと思う」


「言ってて悲しくねぇのかよ……」


 よくもまぁ、筋トレ全否定の言葉が次々出てくるもんだ。

 もはや自分を否定してるのと同じだぞ?


 しかしなんで美少女と筋肉を比べ……


「……ん? もしかして……」


 そう考え出した時、俺の中に一つの予想が生まれる。


 わざわざあの時、笹森さんを指定してきた訳……


 できれば可愛い女の子を探してこい、と犯罪臭のする話をした理由……


「その通りだ。ジムのポスターに美少女を使うことで、うちでは美少女が筋トレをしていると錯覚させる!!!!」


「おぉ!? すげぇ!!」


 この脳筋親父、ちゃんと考えてんじゃねぇか!!


 たしかに、筋肉ムキムキのやつを見るより、華やかな女の子を見る方が、何事にも意欲が湧いてくる!!


 CMとかに流行りの芸能人を使うのと同じ理由か!! すげぇ!!


「あはは……先輩が先輩なわけが分かった気がしますね……」


「だね……この父の元に雄二あり、って感じ」


「こらそこぉ!! 私語は禁止だ!! 俺をと一緒にすんな!!」


 父さんの後ろでコソコソとよろしくない会話を繰り広げる、かの美少女2人に叱責を飛ばす。

 

 ちなみに説明するまでもないと思うが、ってのは、俺の前でおもむろにダンベルを手に取って上げ下げしてる筋肉のことだ。


「しかも2人とも、美少女美少女言われて顔真っ赤にして照れてたろうが!!」


「な、なんでそれを……!? てか見てたの……!?」


「て、照れてなんかないですよ!! これはその……撮影されるのが恥ずかしいなって思ってただけです!!」


「2人とも可愛いから問題なぁい!!」


「……っ!!」

 

「……っ!!」


 2人とも、首を下げて視線を膝の上に乗せた手へと向けている。


 やっぱ照れてんな? なんかもう、この写真を撮ってポスターにすればそれだけでいい気がする。

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