第105話 〜〜っ!! わ、分かった……

雄二たちと別れた後、俺は俺の時間を過ごす。


 具体的には……


「はっはっは! まさかあの的場がなー」


「生徒会に入るなんてね。これも雄二の影響かな?」


「……そうかもな」


 明里と2人でいられる数少ない時間……なんだけど、こんなに楽しそうに、自分のことのように雄二のことを話す明里を見てると、胸が苦しくなる。


「……あ、ご、ごめん。そんなつもりじゃ……」


「ははは! そんなに慌てんなよ。まだ何にも言ってないだろ?」


「そうだけど……でもやっぱり、ごめん……」


「……」


 ったく、こいつは……


 明里の、そんな遠慮がちな行動を見せられると、不愉快だ。


 雄二の話を楽しそうにされるよりも、ずっとずっと。


 それが俺のせいなら、なおさらに。


「ゆ、優也……?」


「明里」


「は、はい!」


 さっきまでの和気あいあいとした空気をもっと感じていたい気持ちもあったが、そんな空気をも払拭して伝えたいことができた。


 かしこまった様子で俺の言葉を待つ明里の目を見て、その思いを伝える。


「俺は、お前がそんな申し訳なさそうな顔をするのを見ていたくない。そんな顔にさせてる俺をぶん殴りてぇくらいだ」


「優也……」


「だからよ……せめて俺の前では、笑顔のお前でいてくれ。俺が好きになったのは、そんなお前でもあるんだからよ」


「〜〜っ!! わ、分かった……できるだけ……頑張ってみる……」


「……おぅ」


 震える明里の声にそう答えた俺の声は、語尾が萎んでいた。

 

 くっ! おいなんだこれ!? 恥ずかしいぞ!? 明里の顔が見れねぇ……!!


 なんなんだこの空気は……和気あいあいはどこ行った?


「わ、私、こっちだから!!」


 交差点に差し掛かったところで、明里がこの空気を切り裂くように声をあげた。


「え? あ、あぁ、そうだったな。じゃあ気をつけて……」


「またね!!」


 帰れよ、と言おうとして、明里の声がそれを遮った。


「はぁ……まだ先は長そうだなぁ? それはそれで楽しいけど」


 たたた、と走り去る明里の背を目で追いながら、我ながら面倒な恋をしたもんだ、と思いを馳せる。





「ただいまー」


 夏休みボケがまだ治んねぇ……学校疲れたなー、とか思いながら家のドアを開ける。


「おぉ! 待ってたぞ!!」


「……母さーん、今日の夜なにー?」


 目の前の筋肉、見てるだけで目に疲労がたまるなー、とか思いながら、努めて目を合わせないようにしながら母さんに声をかける。


「母さんはまだ帰っていない!! 父さん筋肉を見ろ!!」


「うっ……嫌だ……見たくない……筋肉は目に毒だ……」

 

「ふっはっは!! 筋肉が毒なわけないだろう? なかなか面白いことを言うようになったなぁ!! ふっはっはっは!!」


「……」


 いや冗談じゃないんだけど。致死量だわ。


「……で、どうしたんだよ。何で待ってたんだ?」


「ふっはっは……おっと、そうだそうだ。お前に話しがあるんだった」


「やな予感しかしねぇ……」


 いやでも警戒心が膨張していく。


 一体なんだ? 筋トレのお誘いなら今まで何度も断ってるし、今更ないだろうが……


 息を飲み、父さんの言葉を待つ。


「父さん、筋肉のポスターを作ろうと思うんだ!!!!」


「やめろぉぉぉぉ!!!!!!」


 とんでもねぇこと言い出しやがった、この親父。





「いやな? ポスターってのは、うちのジムのやつだ」


「なんだよ……焦らせんなよ……頼むぜほんと」


 叫び声がご近所さんに響き渡ると言う理由で、俺たちは居間のテーブルで向かい合わせになっていた。


 まぁ、ジムが併設されてると言うこともあって、防音はしっかりしてるから多分大丈夫だと思うけど。


「でな? そのポスターのモデルが欲しいわけだ」


「……俺は嫌だぞ」


 そんな筋肉モリモリの中に入ってくのは遠慮したい。


「いや、お前の友達に頼みたいんだ。前にお見舞いに来てくれた子とか……どうだ? 頼めそうか?」


「……訊いてみるよ」


 俺がモデルになることは眼中にないだと……!? くっ……! なんか悔しいぞ……!? こんなことを思ってしまうのが余計悔しい……!!



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