第96話 好きでしょ?


 先輩から、中西先輩と明里さんの過去の話を聞いた時。


 どこか違和感を感じた。


 明里さんは、先輩とよく話していると思う。すごく楽しそうだし、私だって先輩と話すのは好きだから、自然なことなんだと思う。


 でも明里さんには、好きな人がいる。


 その人と付き合うために……想いを届けるために、頑張ってる。


 それでもその人にはもう好きな人がいて。けど明里さんはその人に勝とうとしてる。前を向いてる。


 そんな明里さんの思いの先はどこ? 誰に向けられたものなの? 


 ……きっと、私の知らない人だと思ってた。明里さんは年上だし、私と出会う前から出会っていた人がいたんだと思う。


 だから、第三者である私にその事を相談してくれた。


 ……ずっと、そう思ってた。そう、決めつけてた。


「先輩って……雄二のことだよね、やっぱり」


 どこか納得したようにそう口にする明里さん。


 私は無言で頷いて続きを待つ。


「……私さ、初めて奏ちゃんと会った時話したこと、覚えてる?」


 もちろん覚えてる。それこそ、明里さんが好きな人のことで悩んでいたんだ。


「はい、覚えてますよ」

 

「その時、奏ちゃんに言ってもらえたんだよね……諦めちゃだめって」


 嬉しそうにそう口にする明里さん。なんだか、相談に乗って良かったなって気持ちになる。


「そう言ってもらえたこと……すごい力になってる。そして……」


 立て続けに空に上がる花火を見上げながら、明里さんは話す。


「この前、私は雄二に告白した」


「そうだったんです……ん!? え、こ、告白……告白!?」


 あまりに急すぎる話の内容に、思わず変な声をあげてしまった。


 いやいや、でもしょうがないと思う。先輩のこと、好きなのかな? とか思ってたら、私の予想を三周して斜め上を突っ切っていった感じ。いやどんな感じ? ……もう! テンパりすぎててよく分かんない!


「そう、告白」


「……先輩に?」


 やっとの思いで絞り出した言葉。


「そう、雄二に。なんか成り行きで」


「成り行きで告白できちゃうんだ……?」


 年上の女の人ってすごい。


「返事はもらわないつもりで」


「返事もらわないんだ!?」


 え、それ告白なの!? 分かんない分かんない、もう分かんない!! 告白したことないから!!

 

「だってほら、やっぱり雄二には他に好きな人いるみたいだから」


「あ、あぁ……なるほど……」


 後輩として、相談相手として、そして友達として、何か言葉をかけるべきなんだと思う。けど、あまりの急展開に私の頭はそこまで追い付けない。


「でも……諦めるつもりはない。それは、奏ちゃんにそう言ってもらえたからでもあるし、私の本心でもあるから」


 真っ直ぐ私を見て、そう言い切る明里さん。


 こんなふうに強い言葉を口にできるのは、きっと明里さんがこれまで一生懸命だった証拠なんじゃないかな。


 積み重ねてきたものがあるから、これからも続けようと思える。


 そんな姿を見ていると、改めて明里さんの魅力が伝わってくる。


「……そうですか。明里さんならできる! って言った手前、私も応援するしかありませんね?」


 笑顔を作って、冗談混じりにそう口にする。


「……いや。応援はもう、しなくていいよ」


「……え?」


 それってどうゆう意味ですか? そう訊く前に、明里さんはゆっくりと口を開いた。

 

「だって奏ちゃん、雄二のこと好きでしょ?」


「……え?」


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