第95話 好きな人って……?
「合!! 流!!」
正面に現れたうるさい男が説明してくれる通り、俺たちは合流場所にて無事、顔を合わせていた。
「だまれ」
「なんだなんだ。テンションひきぃなー」
なんだなんだ。このテンションたけぇなぁ。
「おい、明里。こいつをどうにかしてくれ」
「えっ?」
こっちはどうしたんだ……?
正面の拡声器とは裏腹に、明里はずいぶんおとなしく見える。
なんだなんだ。都会のイケメン高校生と仲間が入れ替わったんか。
「まぁまぁ、そんな邪険にしないでくれよ。いつものクールな俺になるからよ」
「……そういやお前はいつもアホだったな」
クール、なんて似合わない言葉を聞いて肝心なことを思い出した。そういやこいつといる時はいつもこんな感じだったわ。
「……俺の話聞いてた?」
「笹森さんと二人でいたせいか、この空気感を忘れていたみたいだ」
「あ、聞いてないのね」
「とりあえず、花火の会場まで移動しましょうか。だんだん人も増えてきましたし」
「だね。よし、じゃあ行くか」
笹森さんにも相手にされずにしょぼくれてる相方には気づかないふりをして、雪崩のように人が流れ込んでいる方へ足を向ける。
花火まで約一時間。
地元の人もだが、他県、海外からの観光客も多く集まるこの大会。パッと見た感じでも、英語っぽい言葉を流暢に話す金髪高身長の人が楽しげに歩いている。
普通に生活していたら、イベントというイベントのない、田舎寄りの地域。
その中、この花火大会は一大イベントと呼んでも差し支えないだろう。
こうゆう機会は大事にしなければ。笹森さんと花火を見る作戦、成功させてみせる。そのために用意したとっておきのセリフもあるしな。いける。
◆
「わぁ……すごい人ですね」
会場に着くと、すでに多くの人が河原に敷物を敷いたり、設営されたベンチに腰掛けて花火の開始を待っていた。
「座れるかなぁ」
「お、あそこ空いてるぞ」
明里が不安そうに声をあげたところで、優也が河原にある、開けたスペースを指差した。
事前に持ってくることにしていた敷物を俺と優也の二人で広げ、花火スポットを陣取る。
てかこの敷物とか、使うの幼稚園の遠足以来だ。懐かしすぎるだろ。
「よし、あとは待つだけだな」
「だな」
「でもここ、かなりいい場所じゃない?」
「ですよね! ほとんど場所埋まってるのに、こんなところ残ってたなんてラッキーです」
たしかに、ここからだと花火の上がる様子がしっかり見れそうだ。
――運がいい――
これはつまり、神が俺の味方をしているのだろうな。
来たる勝負を見据え、そんなことを考える。
◆
「あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね」
雑談すること数十分。花火が上がり始めるまであと数分。
明里さんは立ち上がって、そう告げた。
「あ、じゃあ私も行きます」
その声に続くように、私もその意思を伝える。
確認……というか、明里さんと話したかった。
ちょっと前から……いや、本当はずっと前からかもしれない、頭に浮かんでいた思い。
「おー」と返事をする先輩たちを尻目に、二人でお手洗いに行く。
◆
「花火楽しみだねー」
「何気にここで見るの久々なんですよね」
「そうなんだ? 私もかなー」と言う明里さんの声が、少し冷たい夜風に流れて聴こえてくる。
お手洗いを済ませた私たちは、外で雑談をしていた。
何気ない会話……もしかしたら次に話すことは、いつもと違うことなのかもしれない。そうゆう事を話そうとしているのかもしれない。
「あの……明里さん」
「んー? どうしたの?」
「明里さんの言ってた好きな人って……」
いろいろ言葉を考えたけど、回りくどい訊き方は、なんだか明里さんを試すような感じがして気が進まない。
だとしたらここは……
「先輩のことですか……?」
単刀直入に訊いた方がいい。
その瞬間、ボーンッという大きな音を立てて花火が高々と上がった。
そして同時に、いつものように綺麗な明里さんの顔が私の視界に映った。
いつもと違ったのは、その表情が動きを失ったように固まっていたこと。
パラパラと空から流れ落ちる花火のかけら。その一瞬が、なんだか今日はずいぶん長いもののように感じた。
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