第15話 下着を選ぼうの回

 

「奏ちゃん! こっちも見てみようよ!」


「明里さん! この服も可愛いですよ!」


 家族連れから学生まで、多くの人で賑わう週末。

 俺たちは、明里の提案で大型のショッピングモールに来ていた。


 ……いつの間にか、女子のショッピングに付き合うという形になっているが。


 ちなみに今は、女性陣のコーディネート大会が始まっている。


「はあ。全く、女子はこういうの好きだよなー」


「まあなー。でも俺は、笹森さんのはしゃぐ姿が見られるのでオールOKだ」


「相変わらずだなー。俺ちょっとあっちのベンチ座ってるわ」


 そう言って隣で話していた優也は洋服屋の正面にあるベンチへと向かった。


「ねえねえ、どっちが似合うと思う?」


 ふと、明里が二つの服を交互に体に合わせ、そんなことを聞いてきた。


「んー……」


 まあ、明里は我がクラスの誇る、初代ミスわし高(俺たち調べ)だからな。

どっちも似合うとは思うが……


「今着てるのが一番似合ってるかな」


 明里は今、襟の大きなジャケットの下に、ブラウン系のボーダーの入ったプルオーバーを着ている。


「ロングスカートも、トップスと相性良さげだし……」


「そそそそそんなっ……今の私が世界で一番可愛いなんて……」


 俺がそこまで言いかけたところで、明里が両手で赤くなった頬を包み込みながら、そんなことを言ってくる。


「いや、そこまでは言ってないが……」


「で、でも! 雄二はこの服がいんだよね!?」


「あ、ああ。まあ、似合ってると思うぞ?」


 俺が明里と話していると、ふと店の奥から笹森さんが顔を出した。


「明里さーん! 下着も見ませんか?」


「分かった。すぐ行こう」


 笹森さんの呼ぶ声がして、俺はそう答えたが……


「……先輩には言ってません」


ふむ。やはりダメだったか……"さりげなく笹森さんと一緒に下着を見る作戦"……


 しかし、ここで引き下がるわけにはいけない。

合法的に笹森さんの下着を選べるチャンスを逃す手はない。


「でも温泉行くならキャミソールとかタンクトップも必要でしょ?」


「……なんでそんなこと知ってるんですか」


「買い物をすることに決まった時、こうなることを想定して調べといたんだよ」


「でもそれ、別に先輩が来なくても選べますよね?」


「……」


 ……たしかに! やばい、どうしよう。調べただけで満足してこの後のことは何も考えてなかった。


「……来るんだったら、ちゃんと感想……言ってよ?」


 しかしここで、人生最大のピンチを迎えた俺に、一筋の光が……


「明里さん!? いいんですか?」


「私たちだけじゃなくて男の人の意見もあった方がいいかなぁ……なんて」


「そう! せっかくだから二人にはいい物を選んで欲しくて!」


 俺は、明里のナイスな提案に賛同した。


「明里さんがそう言うなら……」


 笹森さんも若干不服そうではあるが、一応は了承してくれたみたいだ。

 でもなんか、明里と俺の信頼性の相違に疑問を感じるなあ。





 それから下着コーナーに移動した俺たちは、早速試着会を始めていた。

 さっきまでの洋服屋とは違い、女性もの下着のコーナーはカラフルで、まさに別世界だ。男一人でいるのはなかなかに恥ずかしい。

 優也も来てくれればよかったのに。あいつ、これを見越して断ったな?


「じ、じゃあこれはどう?」


 と、さっきまでキャミソールをあれこれと手に取っていた明里が、一つのキャミソールを手に、服の上から重ねている。


「可愛いと思う」


「そう……」


「先輩っ、じゃあこれはどうですか?」


 すると今度は笹森さんが、レースの、ちょっと大人っぽい印象のキャミソールを服に重ねている。


笹森さんがこれを着たら……やっぱり、


「可愛いと思う」


「……先輩」


 褒めたつもりだが、笹森さんはなんか不服そうだ。


「雄二……」


 明里まで目を細めてこちらを見ている。というよりは、睨んでいる気もする……


「ど、どうした?」


 俺が不安に思って尋ねると、


「「さっきから"可愛い"しか言わないじゃん(じゃないですか)!!」」


「全部おんなじ感想だったら決めれないじゃん!」


「そうですよ!まったく……」


 怒涛のブーイングラッシュが始まってしまった。


「ご、ごめん。どれ着ても可愛いから、つい……」


 さっきからいろいろな下着を見ているが、この二人ならきっとなんでも着こなすと思って、気の利いた感想が言えなかったのだ。


「はあ……もう……明里さん、これ買いに行きましょうか」


「そうだね……」


 そう言って二人ともさっきまでの持っていた下着の会計を済ませるべくレジへと向かってしまった。


 やっぱりもっと気の利いた感想が言えなくてはダメなのか……!


 俺は今回の反省を生かすべく、一人反省会を開演した。





「先輩って、結構ああいうとこありますよね」


 私はレジに向かう途中、明里さんにさっきの先輩の言動について話していた。


「ね。馬鹿正直っていうか……まあでも……」


「「そこが良いとこなのかもしれないけどね(ですね)」」


「あっ」


「あっ」


 ……明里さんも同じことを……


「奏ちゃん、顔赤いよ?」


「え?」


 そういえばなんかさっきから顔が熱いような気がする。


 ……先輩が可愛いとか変なこと言うから……


 あっ、でも……


「明里さんも、顔赤いですよ?」


「お、お互い様だよっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る