第14話 偉大な力?
「温泉旅行……だと?」
先輩達と別れてから家に帰った私は、お父さんから温泉旅行の許可を取ろうと奮闘していた。
「先輩が先生から招待券もらったらしくて……一緒に行かないかって」
せっかく誘ってもらったのだし、あまり断りたくない。
何より、温泉に行く機会なんてあんまりないから、素直に行きたい。
「先輩……? それはいったい何処の馬の骨……じゃなくて、いったい誰なんだ?」
「えっと、前に私を部活に誘ってくれた人達と、最近仲良くしてもらってる先輩……かな」
「そうか。うちの娘を誘うとは見る目だけはあるようだが……」
お父さんはなぜか満足げな顔を浮かべたかと思うと、また難しい顔に戻った。
「しかし、まさか男……ではないだろうな?」
元々結構……というか、かなり怖い顔なのに、さらに強張った顔でそんなことを聞いてきた。
「部活に誘ってくれた先輩は二人とも男の……」
「なんだと!? 二人もいるのか!? いや、一人でも大問題だが……」
「わっ!」
び、びっくりしたぁ。
いきなり大声を出すもんだから、声が漏れてしまった。
……でも、やっぱり男の人も一緒だと心配なのかな。
私が、やっぱりダメかも……なんて消極的なことを考えていると、
「いいんじゃない? 青春だわ〜」
「お母さん」
お母さんが、私の隣に腰を下ろし、頬を緩めてそう言った。
「でもママ、奏に悪い虫がくっ付いたら大変だよ?」
さっきまでの怖かったお父さんはどこへ行ったのか、借りてきたネコのようなか細い声で意を唱えている。
相変わらずお母さんには弱いなあ。
「あら、お父さんは奏がそんな人についていくと思ってるの?」
「いや、そんなことはないけど……やっぱり心配でぇ……」
「大丈夫だよ! 先輩達は悪い人ではないから……それに、明里さんだっているし……」
「ふふっ、奏はいい先輩を持ったみたいねぇ」
「まぁ……そうかも」
まだ出会って間もないけれど、安達先輩も中西先輩も、もちろん明里さんだって、すごく良い人たちだと思う。
「でも、お父さんも心配みたいだから……はい、これ」
ん? これは……
私はお母さんが私に手渡したものをしばらく見つめて固まってしまった。
そんな様子を見兼ねてか、お母さんは口を開いた。
「メリケンサックよ」
「メリケンサック……」
え? お母さんはこんな物を持っていけっていうの?
それより、一体どこからこんなの出したの、お母さん……
「おお! それを持ってくなら安心だな!」
「え? お父さん?」
お父さんまでこれを持っていくのに賛成している。
というか、それだけであんなに心配してたのにあっさり行かせてくれるなんて……メリケンサックってすごいなぁ。
私が人生で初めて、メリケンサックを偉大だと思った瞬間だった。
◆
「ん〜〜〜〜っ!!」
家に着いてから私は、一人まくらに顔を埋め、転げ回っていた。
なんかこうやって冷静に考えると、かなり奇怪な行動な気もする……
でもしょうがない! 雄二と一緒に温泉旅行だよ!?
ピコッ
「ん?」
あれ? 誰だろう?
「あっ! 奏ちゃんからだ」
今来たのは、温泉旅行に行く四人で作ったグループへの通知だった。
元々は
「なんかメリケンサックのおかげで温泉旅行行けます!」
そこにはこんな内容の文面が……
え? メリケンサック?
なんのことだろう……?
……よく分からないけど、とにかく奏ちゃんも参加できるみたい!
いくら雄二と一緒とは言っても、やっぱり女子一人なのは寂しいから、奏ちゃんも来てくれるのはすごく嬉しい。
「あっ、そうだ」
泊まりの旅行なんだから、色々準備をしないと。
そう思って、私はグループに送信をした。
「今度の週末にみんなで買い物しない? 温泉旅行に向けてさ」
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