第13話 救世主、再び


 「安達ー、ちょっといいか?」


 放課後、教室を出ようとしたところで俺は松中先生に声をかけられた。


「はい、なんですか?」


「いやな? この前お前の部活作ってやれなかったろ? 一回約束したのに」


「ああ。いや、まあ全然大丈夫ですよ」


だって笹森さんの連絡先聞けたし。


「そうか? まあでも……」


 そう言って松中先生は俺にを手渡した。


「ん、これは?」


「温泉旅行の招待券だ」


 招待券……?


「この前、商店街の福引で当たったんだが……俺は独り身だからな。人数が足りなくて勿体無いんだよ」


 たしかに、この招待券には"四名様"と書いている。


 てか、商店街の福引でこれ当たるってどんだけ豪運なんだよ……


「他の先生に渡そうとも思ったんだが、この前のこともあるし、お前に渡しておこうと思ってな」


 松中先生……そこまで考えていてくれたのか……なんだかんだ、良い人だよな。


「この前部活に入ろうとしてた子達とでも行ってこい」


「ありがとうございます!」 


 そう言って、松中先生は教室を出て行った。


 ふむ。と、なると……俺と、あとは笹森さんだな。よし。


「ゆ〜じ〜」


 と、背後から魂を抜かれそうな、不気味な声がした。


「ちっ、聞いてやがったのかお前」


 俺が笹森さんと二人で旅行に行くビジョンを鮮明に描きだしていたところを優也に邪魔されてしまった。


「まさか、俺を置いていくなんてことないよな? 部活に入ろうとしてた一人だもんな?」


 お前の魂胆など見え見えだというふうに煽ってきやがる。


「ゆーじっ!」


 今度は快活な声が俺の耳に入った。


「四人ってことは、雄二と、奏ちゃんと、優也と、あと一人分余っちゃうね」


 ニッコニッコな笑顔で明里が俺を見ている。


 こうなったらもう無理か……


「はあ……しょうがねーな。四人で行くか……」


 二人ともさらにニッコニッコになりやがった。ちくしょー。


「じゃあ、奏ちゃんも誘ってこれから喫茶店にでもいこーよ! そこで温泉旅行の事話そう?」


「そうだな。んじゃあ、一年の教室行くか」


 明里の提案で、俺たちは笹森さんも交えてみんなで喫茶店に行くことにした。





「それで、どうして急に温泉旅行に……?」


 喫茶店に着いた俺たちは、早速温泉旅行について話していた。

 この前はストボに行ったが、いつも来るのはこの店だ。

 メニューこそ多くはないが、人があまり来ないため、けっこう長い時間居座ることができる穴場だ。


「この前、松中先生に頼んで部活作ってもらおうとしたでしょ?」


 俺は笹森さんに説明を始める。


「一度引き受けといてダメだったから、そのお詫びって感じでくれた」


「えっ」


 笹森さんが驚いた声を上げている。


 そりゃそうだよな。あんなことがあったとはいえ、まさか生徒に温泉旅行の招待券をくれるなんて……まじで救世主だぜ。


「そういえば温泉旅行って具体的にはどういう日程なんだ?」


 俺が松中先生を拝んでいると、優也が疑問を口にした。


 おっと、そういえばどうなんだろう。温泉旅行にテンション上がりすぎて内容全然見てなかった。


 俺は松中先生にもらった招待券をもう一度見てみた。


「一泊二日で、薔薇ばらの湯。来月いっぱいまで使えるみたいだ」


「えっ、泊まりなんですか?」


 それは俺も思った。泊まりで四人も旅行に連れてってくれるなんて、最近の福引はすげーな。


「じゃあ、いろいろ準備しないとね!」


 明里は更にハイテンションでそんなことを言っている。


 でも泊まりとなれば、それなりの準備が必要なのは確かだ。


「来月まで使えるんだろ? じゃあ、来月にある三連休でいこーぜ」


「三連休?」


 俺がそう口にすると、優也はスマホを取り出し、カレンダーを見せた。


「ほら、この日創立記念日だろ?」


「ああ! そういえばあったなー」


 納得納得。そういえば、創立記念日が六月にあったな。

 しかも今年はそれが金曜日だから、土日と合わせて三連休になる。


「それだと結構余裕持てますね。でも……ちょっと親に聞いてみないとわかんないですね……」


しかし、ここで笹森さんが不安を口にした。


「まぁ、そうだよね。俺たちもまだ聞いてないし」


 まあでも、俺らは結構遊びに行ったことあるから、今更親も不安に感じないが……笹森さんは、年上と遊びに行くわけだし、親も不安だろう。ここは笹森さんの返事をゆっくり待つしかないな。


「あ、ちなみに泊まるときの部屋は二部屋とれるみたいだよ。んで、一日目の夕飯と、二日目の朝食付き」


「そうなんですね。普通に泊まるよりは安くなりますね……頑張って説得してみます!」


ん? まてよ。二部屋ということは……


「二部屋ということは、俺と笹森さんが同じ部屋ってことで……」


「「いいわけないでしょ(ないじゃないですか)!!」」


 女性陣二人の声が見事に重なり、俺の淡い期待は砕け散った。

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