第12話 あ、あ〜ん……

 

 「第二回! ポンコツ更生会議を始める!」


 と、高らかに宣言した優也は、ウーロン茶を一飲みして、テーブルにカンッと置いた。


「なんで普通にその会議続いてんの?」


「なんか語呂がいいから」


 俺は優也と、笹森さん攻略の次なる作戦を練るべくファミレスに来ていた。


「この前、奏ちゃんと駅であってから約一週間……何も進展がない! これは一体どういう事か……?」


 まあ、これは耳の痛い話だ。月も変わってもう五月になったし。

 学年が違うこともあってなかなか会えなかったからな……

 まあ、一週間くらいでそんなに進展ある方が珍しいとは思うが。


 ……いや待てよ! 一週間。たかが一週間。だが……


「もしかして、笹森さんのびゅーてぃふぉーな姿に惹かれた男が寄ってくる……?」


「そういうことだ……!!」


 華の男子高校生が二人、心底真面目な顔で向き合い、この世で一番大事な会話をしている。


「たかが一週間。だが、入学したての一年には大きな一週間になる……ということだな?」


「その通りだ」


 ふむ、たしかにまずいな。笹森さんに他の下衆な男が近づくのはよろしくない。何より羨ましい。同じ教室にいられるということがこの上なく羨ましいのだ。

 これ以上美味しい思いをさせていいわけがない。


「一年にもっとアピールをするしかない、か」


「だな」


「他のモブ男達が見てる時に笹森さんに話しかけるって感じか……」


 笹森さんを遊びに誘う時に、一年の教室で誘うことで、他のパッとしない軟弱男どもから笹森さんを守るができる、完璧な作戦だ。





 と、いうわけで翌日のお昼。一年B組の教室にて俺は、


「笹森さーん! 一緒にお昼どうかなー?」


 愛を叫んでいた。と言っても、一緒にお昼を食べないか誘っているだけだが。

 わし高の生徒は大抵持参の弁当か食堂に行くか、購買でお昼を済ませるかのどれかだ。

 もちろん、笹森さんが弁当を持ってきてしまわないよう、事前に連絡をしてある。笹森さんに関しては抜け目がないぜ。


「あれ? あの人この前奏と話してた人だよね? 奏、もう先輩に知り合いいるんだ!」


「あはは……まあね」


 やるじゃ〜ん、と笹森さんの友達らしき人が声を上げている。


 他のモブ男共もチラチラとこちらに視線を向けている。


 どうも。安達です。いつか必ず、笹森さんの彼氏になる男、あ・だ・ち・です!


 俺は心の中で笹森さんに悪い虫がつかないよう、目一杯アピールをした。


 あんまり意味がない気もするが……


「今行きまーす」


 笹森さんはそう返事をして、こちらへと歩き出した。


「あっ! 明里さんも一緒なんですね!」


 と、明里がいることに気づいた笹森さんは喜びの声を上げている。


 ……そう、俺が笹森さんを誘いに行こうとしたら、明里まで一緒に来ると言い出したのだ。それに続くようにして優也もついてくるし……


 結局、この前の四人で俺たちは一階へと向かった。

 あ、食堂は一階にあるからね。三階ここからだと結構遠いのよ。





 そして食堂。


「何食う?」


「俺カツ丼」


「私は月見うどんかな」


「あ、じゃあ私も月見うどんがいいです」


 おいしーよー、と明里が笹森さんと楽しげに話している。


 ……まあ、笹森さんも明里が一緒の方が楽しいそうだしいいか。


 俺たちは食券を食堂のおばさんに渡し、料理ができるのを待ち……


「おっ! きたきた」


 数分待つとすぐに四人分の料理が出てきた。

 学食は速いのも良いとこだと思う。


 俺たちはテーブルにつき、それぞれ食べ始めた。


「わっ、これ美味しいです!」


「でしょ!」


 笹森さんも美味しそうに食べている。

 そんな顔を見れて俺はすでにお腹いっぱいだ。


 二人きりじゃなくてもこうやってみんなで昼を食べれるのもいいかもしれないな。


「そんなに美味いのか?」


 俺が何の気なしにそんなことを聞くと、


「ひ、一口食べる……?」


 明里がこんなことを言っている。


 と、思ったら、箸で一口分のうどんをつかみ、俺に差し出してくるではないか。


 え? これは……このまま食べろという事か?


 あ、あ〜んってことか!?


 さ、流石にこれは……


「ちょっと……腕が疲れるんだけど……」


 俺が待たせすぎたせいか、明里の腕が少し震えている。


 ついでに顔も赤い。絶対やってから恥ずかしくなったんだろ……ともあれ、あんまり待たせ過ぎるのはよろしくない。

 女の子にだけ恥ずかしい思いをさせるのも、笹森さんが見てる手前したくない。


 あ、あ〜ん……


 俺は意を決して口を開けた。


 もぐもぐ……あ、たしかに美味いな。

 ここの月見うどん食べたことなかったからな……今度食べてみようかな。


 と、気を逸らそうとしたけどやっぱ無理だ。


 恥ずかしすぎるっ……!!


 笹森さんも顔を赤くして俯いてるし、優也はなんかニヤニヤしてるし……明里に至ってはもう顔が赤すぎて表情が読み取れないほどだ。


 はあ、まったく……


「まあ、その……うまかったぞ、明里」


 俺はこのいたたまれない状況から脱すべく、明里にそう声をかけた。


「そ、そう……よかった」


 明里は少し照れたように声を振り絞っている。


 明里って、こんな感じだったけ?


 なんか印象が変わった気がするけど……


「さ、冷めちゃう前に食べよっか!」


「お、おう。そうだな」


 まあたしかに冷めると美味しくないからな。


 そう思い、俺たちは食べるのを再開した。

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