第9話 好きな人
休み明けの月曜日。本来ならば一週間のうちで一番憂鬱な曜日だろう。しかし俺は、昨日笹森さんパワーをたらふく充電したので元気百倍だ。
「……おい。さっきからニヤニヤと気持ちわりーやつだな」
……昨日のことを思い出して顔がにやけてしまうのが我慢できないほどに。
「いやー、昨日笹森さんと桜祭りに行けたんだよ」
前の席からこちらを訝しそうに見ている優也に昨日の出来事を簡単に説明すると、部活作戦が失敗したのになんでデートできてんだと不思議そうな表情を浮かべている。
まあ無理もない。俺もまさかあの状態からこんな展開になってくれるとは思わなかった。
俺が心の底から幸せを噛み締めていると、
「ゆうゆう〜」
ふと、横から俺たちを呼んでいるのであろう声が聞こえた。
「そのパンダみたいな呼び方はやめろ」
「えー、いいじゃんなんか可愛くて」
肩の下まで伸ばした明るい茶色の髪を揺らしながら、明里が声をかけてきた。
「それより雄二、一年の女子に告白したってほんと?」
告白? 笹森さんのことだろうか。告白をした覚えはないが……
「あ、もしかしたら部活に誘った時か?」
そういえば告白じゃないかと噂している人がいた気がする。
「え? 部活に誘ったの? なんで?」
「いや、連絡先が聞きたくて。同じ部活に入ってたら自然に聞けるだろ?」
こいつバカだろ? と優也が笑っているが……そもそもお前が作れって言ったんだろーがとツッコミたい。
「それで……どうだったの?」
なんか明里もすごい興味深そうに聞いてくるし。
部活作戦の件は俺の中で黒歴史になりつつあるからあんまり傷口をえぐるような真似をするのは少し気がひけるが……
「結局ダメだったよ。松中先生に顧問頼んだんだけど学校側から許可が下りなくて」
まあその後松中先生にめちゃくちゃ謝られたわけだが……きっとあれでも一度引き受けといて、という負い目があったんだろう。
「そうなんだ……」
なんか明里の顔が少し緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか。あんまり俺の傷口を開かせないでほしい。
「でもその後連絡先聞いて昨日デートしてきたらしいぜ」
俺の前の男が唐突にそんなことを言いやがった。
「え!? そうなの!?」
「いや、まあ……」
なんか改めてデートって言われると照れるな……
俺がそんなことをしみじみと考えていると、
「ホームルームやんぞー」
「おっ、松中先生来たぞ」
松中先生が教卓の前に立ち、ホームルームの準備をしていた。
「あ、じゃあまたね」
明里を含め、クラスのみんなはそれぞれ自分の席に戻り、朝のホームルームが始まった。
◆
……まさか雄二が、一年生の女の子とデートしたなんて。それに連絡先聞いたって……それってもう、その子のことが好きってことだよね……?
ホームルーム中、私はずっとさっき優也の言っていた言葉を考えていた。
どうしよう……このままではその子が雄二と付き合ってしまうんじゃないだろうか? そうなってしまったら私は……
「じゃあ、今日も頑張れよー」
あっ……考え事をしていたらいつの間にかホームルームが終わってしまった。
とにかくこのままではダメだ。
好きな人が他の子に取られるなんて、絶対に嫌だ。
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