第6話 結果オーライ?
「自由部(仮)……?」
笹森さんがよくわからないと言った様子でこちらを見上げている。
俺が説明をしようと口を開こうとしたところで、視聴覚室の扉がゆっくりと開いた。
「な〜にが自由部だ。ったく、他になんかなかったのかよ?」
「仮だっつってんだろ」
昨日の今日でそんな立派なアイデアが浮かぶわけない。
「えっと……この人は……?」
「ああ、ごめん。こいつがさっき言った友達。もう一人の部員だよ」
「中西優也だよ。このポンコツの友達」
よろしくね、と笑ってやがる。
この野郎、ポンコツとか言いやがって。ポンコツ更生会議で俺はちゃんと更生したっつーの。
「あ、よろしくお願いします!」
「とりあえず中入ろうか」
せっかく目の前に部室があるのだから入ろうと思い、俺はそう声をかける。
視聴覚室の備え付けの椅子に三人で腰をかけ、俺は事の経緯を話し始めた。
「ここが自由部(仮)の部室。で、顧問は松中先生に頼んだ。活動内容は未定。これから決める」
「よくそれで部活作れたな……」
「松中先生に、自主性を育むための活動っていったらオッケーしてくれた」
「すごい先生ですね……しかも顧問まで引き受けてくれるなんて……」
笹森さんが少し呆れ気味にそう呟く。
まあ、俺もあんなに上手くいくとは思わなかった。
そもそも、連絡先聞くために部活作ったからな。我ながらすごい行動力だと思う。
「んで、今日の活動内容は……部活の名前と、まだ未定の活動内容を決める!」
やっぱりせっかく部活を作るんだから、出来るだけ楽しいものにしたい。せっかくの高校生活だしな。
まあ、俺は笹森さんといられるだけでかなり楽しいが。
「そうですね。もう私も入部するしかない雰囲気になっちゃってるし……」
笹森さんは半ば諦め気味だ。
でもなんだかんだ言っても部活に入ってくれるみたいで俺はハッピーだ。
◆
その後、俺たちは各々意見を出し合うことにしたのだが……
「野球部!」
「野球は三人じゃできねーよ! しかももうあるだろーが」
「先輩っ、やっぱりいちご研究部ですよね!」
「笹森さんは何でそんなにピンポイントなの!?」
この二人、現実味のない意見ばかりで話が進まねぇ。
まあ、元はと言えば、俺が内容を決めずに部活を作ったのが悪いんだが……
「はあ……せっかく新しく部活作るんだからもっと楽しいことしよーぜ」
「じゃあ、エンジョイ部だな」
「あっ、いいですね、それ」
名前決まっちゃったよ。
俺らがグダグダと今後の活動内容について話していると……
ガチャッ
部室の扉の開く音が聞こえてきた。そして、さらにとんでもない言葉が俺の耳に入ってきた。
「安達ー、やっぱ部活ダメだった。部の設立届学校に出したら速攻で却下されちゃった」
「……」
「え……」
「まじかよ……」
◆
松中先生から驚愕の事実を聞いた帰り道。
「じゃあ俺こっちだから、またな?」
優也が別れ際、確認するように聞いてきた。おそらくあれでも心配してくれているのだろう。
まあ、考えてみれば当然だ。ほとんど"未定"の設立届が通るわけがない。
「はあ……」
「先輩、大丈夫ですか?」
笹森さんが心配そうに気遣ってくれるがそれもちょっと辛いくらいだ。
俺は「大丈夫」と答えるのが精一杯だった。
「……そういえば、どうして部活を作りたいと思ったんですか?」
「笹森さんの連絡先が知りたかったからさ」
「え?」
「笹森さんと同じ部活に入れたら連絡先聞けるかなーって」
あっ、正直に答えすぎたか?
そう思い笹森さんの方を見ると、顔を伏せ、ぼそりと、
「……いいですよ」
え? 今なんて? それって……
「それって……連絡先を聞いてもいいってこと……?」
「……はい」
両手の指を絡ませて、うつむき気味に笹森さんは言った。連絡先を聞いてもいいと、確かにそう言った。
「え? え! 本当にいいの!?」
俺はあまりの嬉しさに興奮気味に笹森さんに詰め寄ってしまった。
「せ、先輩……近いです」
「あっ、ごめん……」
もう、部活がダメになったことなんかすっかり頭から抜けていた。
そんなことよりも、好きな人の連絡先一つ聞けたことがこんなにも嬉しいことだったなんて。
俺は舞い上がる気持ちを必死に抑えて、笹森さんとの連絡先を交換した。
部活はできなくなってしまったけど、結果オーライ……かな?
夕方になり、空もすっかり赤くなった帰り道で、俺はそう思った。
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