第4話 決断
「ただいまー」
笹森さんと別れた後、連絡先を聞かなかったことに頭を悩ませながらもなんとか帰宅して、家のドアを開けると……
「おう、おかえっりっっ!!」
そこには満面の笑みでサイドチェストをかますタンクトップを着たゴリラ……じゃなくて、俺の父さんの姿があった。
「ああ、父さん仕事今終わったの?」
もう見慣れた光景なのでいちいちツッコまない。慣れって怖い。
「おお! 今日もお客さん喜んでくれたからな! 父さんの筋肉たちも大喜びっだっっ!!」
そう言ってまたポージングをしている。
まったくこの親父は……
ちなみに父さんはパーソナルトレーナーとして働いている。俺が中学生の時には独立して今はフリーランスだ。
普段は仕事が入るまで二階の居住スペースで待機してるが、お客さんの予約が入ると一階のジムを使ってお客さんに指導をしている。
「次のお客さんまで時間空くから、父さん一旦二階に戻るぞ」
父さんはそう言ってのっそのっそと階段を上がって行った。
俺も行くか。今日はいろいろと疲れたからな。早く部屋に行って休みたい。
「二人ともお疲れ様、今お昼の準備してるからね」
二階に行くと、昼ごはんの準備をしながら母さんが出迎えてくれた。
そういえば昼ごはんまだ食べてなかったな。笹森さんとストボに行けたことが嬉しすぎてすっかり忘れていた。
「新学期はどうだった?」
「んー、あんま変わんない。クラスも変わんないし」
俺はそう答えると、テーブルの前の椅子に父さんと向かい合うような形で座った。
それにしても、せっかく連絡先を聞く絶好のチャンスだったのに、それをおめおめと逃すなんて……
「なんで聞かなかったかなぁ……」
思わず声に出てしまった。
あっ…… と思った時にはもう遅く、父さんの目がギラリと光った。
「お前……恋をしているな?」
なぜ今の発言でそこまで分かる。
「その顔……図星だな?」
あまりの驚きに衝撃を隠せなかったのもしょうがない。
まさかあれだけでその結論に達するとは……
「その話……母さんも興味あるわ」
母さんまで料理の手を止めて期待に満ちた目でこっちを見ていた。
嘘だろ……
これはもう逃げられない、俺は本能的にそう悟った。
「それで? 一体どの子に恋をしたんだ? 三角筋か?やっぱり大胸筋、いや大腿四頭筋か……?」
「人に決まってんだろ、脳筋親父。後輩の子だよ」
「後輩? ってことは一年生なの? あんたいつの間にぃ〜?」
母さんまで俺をからかってくる。
くっ……こんな恥ずかしめ……
俺はもう、どっかのクルセイダーのようなことを考えるようになっていた。
◆
その後も質問攻めは続いたが、俺はなんとか乗り切って自分の部屋に帰ってくることができた。
あのバカ夫婦、どんだけ息子の恋愛に興味津々なんだよ……
「疲れた……」
俺は完全に疲れ切って、ベットにボフッと体を投げ出す。
ピコッ
俺がベットに体を投げ出すのとほぼ同時に、ポケットに入れたままだったスマホに通知が来た。
笹森さんと連絡先交換してたらこれも、笹森さんかも!? って言うドキドキイベントになったのに……まぁ、いつまでもそんなことをぐちぐちと考えても仕方がない。
俺はスマホを取り、通知を確認する。
『奏ちゃんとはどーだったよ?』
通知の主は優也だった。
俺はことの経緯を一通り伝える。すると……今度はスマホが震えだし、通話画面へと変わった。
なんで急に電話?
不思議に思ったが、さっきまで会話していたのに急に出ないのも不自然だ。そう思い、通話開始へと指を滑らせると……
『積極的に攻めるオオカミになったかと思ったらただのポンコツじゃねーか! なんで連絡先聞かねーんだよ!?』
耳がひび割れたかと思った。後でハンドクリーム塗らないと。
いや、そんなバカなことはどうでもいい。とにかく、
「うるっせーよ! てか、いちいち電話してくんな!」
『いやだめだ。お前のポンコツ振りを治すには直接話さねーと』
……こうして、第一回安達雄二ポンコツ更生会議が始まってしまった。
『しかしこうなったらもう一回なんかに誘うしかねーぞ』
たしかにそれはそうだ。
いきなり教室に行って、「連絡先教えてー!」なんて言うのは不自然すぎる。
というか俺の印象が下がる。やっぱり気遣いのできるしっかり者の先輩でいたいからな、うん。ここは素直に優也の話を聞くしかなさそうだ。
『……お前、積極的に攻めるって言ったよな?』
なんか電話越しに不吉な気配を感じる。優也はそんな俺の懸念をよそに話し始めた。
◆
「俺がやんのか……」
『がんばっ♡』
こいつ、他人事のように……
しかし、この案自体は悪くない気がする。腹をくくるしかない。
俺はこれからの自分の生活を大きく変えることになるであろう決断をする。
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