第3話 かわいい、そしてやらかす
あいつ、うまくやれてっかなあ
雄二と別れてから一人帰宅中の中西優也は、親友のことを気に掛けていた。
思えば雄二が俺に恋愛相談じみたことをしたことなんてなかった。
そんなあいつが初めて好きな子の話をしてきたんだ。俺としては全力で応援したいと思っている。
しかし……いや、今はあいつを応援しよう。
そう思い直し、優也は歩みを進めた。
◆
お洒落な雰囲気の空間に俺はいた。幸せなことに、一目惚れした後輩と二人で。
まだ昼前なこともあって、学生の姿はほとんど見られない。今日が始業式なのはこの辺りだとわし高だけなんだろうか。いつもは学生で賑わっている店内も、今日は落ち着いて見える。
「先輩っ! これすごいおいしいですね!?」
「そうだね。喜んでもらえてよかった」
笹森さんはこれでもかと言うくらいの笑顔を俺に向け、美味しそうにストロベリーなんちゃらを飲んでいる。名前が長すぎてよく覚えていないが、本当にいちご好きなんだな、笹森さん。
しかし、俺がいうのもなんだがよく今日初めて会った男についてきてくれたな。これもストボの力か。さすがストボだぜ。
後で優也には何か奢ってやらねーとな。親友への思いを形にしようと模索していると、
「でもなんで私を誘ってくれたんですか? 先輩はお友達も多そうですが……?」
笹森さんが不思議そうにこちらを見ながら、そんなことを聞いてきた。
「笹森さんのスピーチ聞いたって言ったけど、実はそれより前に笹森さんのこと見かけてて、話してみたいと思ってたんだよね」
俺が素直にそう答えると、笹森さんはストロベリーなんちゃらを片手に、
「え、そうだったんですか? ごめんなさい、全然気づかなくて」
少し驚きを見せ、申し訳なさそうに言った。
「俺が一方的に見かけただけだからね」
俺は気にしなくていいよと、軽く笑った。
ホントに勝手に見てただけだし。しかも可愛い女の子を探しに行って……なんかだんだん俺の方が申し訳なくなってきたから考えるのはやめよう。
「そうなんですか……?」
笹森さんはまだちょっと不思議そうにしているが、一応は納得してくれたみたいだ。
あまりつっこまれても困るので、俺は会話をすすめてみる。
「笹森さんはどうしてこの学校に?」
なんか面接官みたいなことを聞いてしまった。
しかししょうがない。超積極的に攻めるとは言ったがやっぱり好きな女の子と話すのは緊張する。しかも今日初めて会ったし。そう考えるとさっきはよく笹森さんを誘えたな……俺がぐちぐちとそんなことを考えていると、
笹森さんはそんな俺の思いとは裏腹に、フランクに答えてくれた。
「あ、はい。私はやっぱり大学と一貫校なのがいいかなって」
笹森さんの言うとおり、わし高は大学に附属しており、普通に卒業できたらエスカレーター式に大学へ進めるようになっている。
附属の大学は、毎年それなりの卒業生が一流企業への就職を決めていて、かなり評価の高い大学だ。
「正直楽だもんね」
俺もそこそこ良い大学に楽に入れるということでこの高校を選んだからな。
そう思い、俺は笹森さんに笑いかけた。
「ですね」
そう言って、笹森さんも笑い返してくれた。
かわいい。
おっと、つい見惚れちまった。あんま見てるとマジで不振がられるからな、今は我慢だ、我慢。
俺はそう自分に言い聞かせた。
◆
そしてそのまま、笹森さんの隣で笹森さんを見ることができる幸せな時は流れ……
「はー、美味しかったぁ」
あっと、笹森さんがストロベリーなんちゃらを飲み終えたみたいだ。
俺は笹森さんに夢中であまり進んでいなかったストロベリーなんちゃらを急いで飲み干した。
めっちゃ冷たい。かき氷食べてるみたいだな。頭いてぇ。
俺は頭がキーンとするのをなんとか堪え、二人で店を出た。
「ごちそうさまでした。 美味しかったです」
そう言って笹森さんは礼儀よくペコリと頭を下げた。
「いやいや、俺が誘ったんだから、そんなにかしこまらなくても良いよ」
しかも、優也の奢りみたいなもんだしな。
「でも、ストボって学生には結構高いじゃないですか? 私もいちごの新作食べたかったけどなかなか来れなくて……」
だから俺が誘った時来てくれたのかな?
ともあれ、結果的にあの割引券が有効に働いたわけだ。感謝感謝。
「俺も笹森さんと話せて楽しかったから」
あまり気を使わせまいと俺がそう言うと……
「ええっ、わ、私なんかそんな、全然面白いことも言えないし……」
笹森さんはあわあわ言いながらうつむき出した。
あれ? もしかして照れてる?
……ちょっと攻めてみるか。
「初めて見た時から可愛いと思ってたからさ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
なんか頑張って平静を装っているけど仄かに頬が赤く、唇をふるふると震わせている。照れてるな、これは。そしてかわいい。
「とにかく! 今日はご馳走様でした! 私こっちなので今日はもう帰りますね!」
まくし立てるように言うと笹森さんは小走りで去っていった。
頭の中が"かわいい"で支配されて何にも考えられずに、俺はその後ろ姿を呆然と眺めていた。
笹森さんの姿が見えなくなるまで立ち尽くし、そして大切なことを思い出した。
「連絡先聞くの忘れた……」
ぼそっと一言。そう呟いた。
しかし、今更彼女の後を追うわけにもいかず、俺は帰路につくしかなかった。
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