第2話 秘策……?
笹森さんのスピーチが始まってからは、もう二度と寝れない体になってしまうんじゃないかと思うほど頭が覚醒し、気が付いたらありとあらゆる体の意識を全て笹森さんに向けていた。
--やっぱり彼女が好きだ--
不意にそんな言葉が頭をよぎった。
どうやら俺は本格的に笹森さんに恋をしてしまったらしい。
◆
それからの時間はあっという間だった。退屈だと感じていた始業式はいつの間にか笹森さんのことを考える時間に変わっていたため、退屈なんてするはずもなかった。
始業式を終え、俺たちは教室へと戻ってきた。
「っぱだるかったな〜、みんな話ながーし」
席に着くとすぐに優也が背中を伸ばし、そんな事を言ってきた。
いつもの俺ならきっと優也と同じ感想を抱いただろう。
しかし……
「笹森さんだよ」
今日の俺は笹森さんのことで頭がいっぱいだった。
何を言ってるのかわからない様子の優也に話を続ける。
「朝一年の教室で話した可愛い女の子」
「ああ! あのスピーチしてた子か! たしかにめちゃくちゃ可愛かったな」
さすが親友。よく分かってるじゃないか。まぁ、笹森さんの可愛さはずば抜けてるからな、うん。
「それでその笹森さんがどうしたんだ?」
「俺、笹森さん好きだわ」
我ながらあっさりと喋れたと思う。高校生になってからこいつとは誰よりも多くの時間を共有してきたからな。つい素直になっちまう。
そんな親友は口をぽかんと開けて俺を見つめ……
「まじか……」
驚いたような感心したような声を上げた。
「可愛い女の子をひたすら探してたお前が一人の女の子を好きになるなんてな……」
そういう感心の仕方かよ……ってか、
「お前が言う?」
「ははっ、確かにな! でもそういうことなら応援するぜ?」
優也は気持ちよさそうに笑うとそう言った。
お調子者なところもあるが俺に親身になってくれる、素直にいい友人だと思う。
「でもお前話したことあんの?」
「あるわけないだろ? 今日初めて見たんだから。しかも一方的に」
「じゃあ、どうすんだよ?」
そう、問題はそれだ。俺は彼女との接点が何もない。好きになった人が実は元々自分のことが好きだった。とか、実は昔出会ったことがある。みたいな漫画やアニメでありがちな設定が何もない。
だからこそ始業式の間俺はずっと考えていた。
それは……
「超積極的に攻める!!」
主人公補正皆無な俺にできることといえばそれくらいだ。そう思い、俺はニカッと笑った。
「ははははははっ! お前らしいな? 攻めろ攻めろ!」
優也が豪快に笑うと松中先生が教室に入ってきて、ホームルームを始めた。
◆
その後ホームルームを終え、解散した俺はというと……
一人校門の前で立っていた。道ゆく学生を穴が開くほど見つめながら。
みんなこっちを訝しそうに見てくるが関係ない。恋と生きる俺にはそれよりもやらなきゃいけないことがある。
でも俺が制服を着ていなかったら間違いなく職質されているだろうな。
そんなどうでもいいことを考えていると彼女が校門に向かって歩いてきているのが視界に映った。
刹那、俺は彼女の元へと歩いた。何も下心などない風を装いながら。
「笹森さん……だよね? さっきのスピーチすごくよかったよ。一年生なのにあんなにちゃんと話せるなんてすごいと思う」
そう俺が声をかけると笹森さんは困惑したように口を開いた。
「ええと……? どなたですか?」
まぁ当然の反応だよな。俺話したことないし。
しかし、ここでひいては何も意味がない。
俺は攻める。
「俺は二年の安達雄二って言うんだけど、この後もしよかったら一緒にお茶なんかどうかな?」
なんかナンパ感すげえな、今のセリフ。
どうやら攻める気持ちと一緒に隠したはずの下心も一緒に前面に押し出されたようだ。
「安達……先輩? えっとー、なんで私とお茶を? 一人で行けばいいじゃないですか」
グサッ
新入生とは思えないほど物怖じしない言葉が飛んできたな……しかし俺には優也に教えてもらった秘策がある!
俺は制服のポケットからスマホを取り出してその画面を彼女に見せた。
「ストローボックスコーヒーの割引券があるんだ! だから一緒にどうかな?」
俺のスマホには優也が送ってくれたストボの"ドリンク&フード1000円引き"の画像が写っていた。
女子高生がストボを前にして帰るわけがない! 勝ったな!
俺が勝ちを確信していると……
「? だからお一人で行けばいんじゃないですか?」
あれぇ……? もしかしてこの子女子高生じゃない?
万策尽きてそんなことを考えていると、笹森さんが歩みを再開してしまった。
! まずい! ここで彼女を行かせてしまったら不審がられた俺はもう口を聞いてもらえないかもしれない。
そう判断した俺は、咄嗟に彼女に声をかけた。
「し、四月の新しいドリンク! いちごいっぱい入ったやつ! すごく美味しいらしいから君にも食べてほしくて!」
俺が勢いよく話しかけると笹森さんは足を止め、
「いちごがいっぱい……?」
と、小さくつぶやいた。と思ったら彼女は勢いよくこちらを振り返り、
「ほ、本当ですか!? 割引券あるってことは先輩がごちそうしてくれるんですか!?」
さっきまでの困惑したような、はたまた迷惑そうな表情は見る影もなく、無邪気な子供のようなペカペカの笑顔でそう言った。
もちろん……
「も、もちろん!」
俺に断る理由なんかあるはずがない。
こうして俺はなんとか彼女とのお茶の時間をいただくことに成功した。
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