サプライズ

結騎 了

#365日ショートショート 118

 苦手な人もいるらしいフラッシュモブ。だがしかし、俺の彼女はきっと喜んでくれる。やっぱり、サプライズが嬉しくない女なんているはずがないんだ。

 ちょっとお高めなレストランで食事をして、イルミネーションが輝く海沿いを歩く。雑踏の人、人、人と密かに目が合う。さあ、よろしくお願いしますよ。打ち合わせは入念にした。あとは、やるだけだ。

「ねえ、あのさ……」

 そっと話しかけ、こちらを振り向かせる。途端にどこからともなく音楽がスタート。プランナーさん、指示通りですね。完璧なタイミングです。スピーカーは、あそこのベンチの下とそっちの看板の裏。音ズレもなく、素晴らしい仕上がり。間髪入れず滑り込んできたのは、すぐそばを歩いていたカップル。指先でリズムを取りながら、俺と彼女を囲うように踊り始める。続いて、後ろにいた家族。進行方向から戻ってきた大学生グループ。後ろから駆けてきた女子高生の集団。バラバラのダンスはいつの間にか統合され、集団のパフォーマンスと化していく。

 さあ、ここだ。ここからが俺の勝負だ。皆が俺を囲い、半円に広がる。その中央で渾身のダンスを披露し、ざっと地面を蹴って近づき、ズボンのポケットにある指輪を差し出す。「死ぬまで退屈させません、僕と結婚してください」。これだ。大丈夫。決まる。決めてみせる。

 彼女は戸惑いからか手で顔を覆い視線だけを飛ばしている。パフォーマンス集団が俺の後ろに回り込む。よし、いいぞ。……とタップを刻むと、半円はぐるりと移動を続けた。あれ、何か手順を間違えたかな、と思ったのも束の間、半円は彼女を囲い始めた。彼女は腕を大きく振りかぶり、腰をくねらせ、妖艶なダンスを踊る。なんだこれは、どう見ても用意されたダンスじゃあないか。きっ、と視線を飛ばした彼女は、流れるように決めポーズ。その後ろのパフォーマンス集団も一斉に決めポーズ。音楽がぴったり鳴り止み、静寂が訪れた。

「ね、サプライズって嫌でしょ。相手の都合を考えずに自己満足でやるんだから」

 彼女の目は冷たかった。

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サプライズ 結騎 了 @slinky_dog_s11

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