第8話 王様ゲーム⁉︎

 舞踏会が始まって暫くして。

 大広間には相変わらずヴァイオリンだろうか、聴いてて落ち着くリズムの音楽が流れている。貴族達やその他の人もその音楽に耳を澄ませている。

 そしてその中から声が聞こえて来る。

『もうそろそろ舞踏会で何か楽しいこと無いかなー』

『音楽聴くだけじゃ退屈よ』

 私達の出番がやって来たみたい。ここからは司会担当として、舞踏会を盛り上げることが重要となる。

 何すれば良いのかなんて詳しくは知らないから、そこは他人任せになってしまう。他力本願になっちゃうけど大丈夫ですか?

「任せとくのじゃ」

 そう頷いてから、大広間にいる皆に透き通る声で伝える。

「えー、今から『貴族恒例!なんでもアリの王様ゲーム』を開催するのじゃ!」

『イエエエエエイッ!』

 そう宣言するや否や大広間の空気が突如として跳ね上がった。何ですかこの「待ってました」的な雰囲気は⁉︎

「舞踏会で歓談や食事を楽しんだ後の嗜みの一環として、こう言う面白いものを取り入れるのもまた一興かと思うてな。そうじゃろうアリス」

「貴族達の間ではメジャーだから悪くないと思うよー。覚悟しといてねー?」

 アリスさんの瞳が私を捉える。

 舞踏会を盛り上げる為に覚悟はして来たつもりだから問題はないです。正直、貴族達が「王様ゲーム」なんてするとは思ってなかったけどそう言った意味での「覚悟」だってちゃんと出来てる。無茶振りってのが気になるけどまあ頑張ってみよう。

 でも、王様ゲームってどう進めていくのでしょうか…… 。一人一人に番号とか振れる訳でも無いみたいですし。

「微精霊の力に頼るのじゃ。『誰か一人を選んで欲しいのじゃ』と伝えればすぐに実行してくれる」

 微精霊と精霊。それは、この世界に存在する魔力が形を成した魔族とはまた違う存在。ルノーアさんの持つ書物によると「実体を持ち高き知性を手に入れたのが精霊と定義されている」だそうだ。

 精霊は自然の力を操るのが得意らしく火、水、風などの自然現象から生まれた、という説が今のところ有力みたい。

 それで微精霊は、何処にでもいる魔力の源で、意思疎通したりも出来る。だからそれを活かすのは良い考えだと思う。

 ルノーアさんは、辺りに漂う微精霊達に目を閉じて語りかける。

「(今この大広間にいる人から誰か一人を適当にえらんで貰えるかの?)」

 精霊との会話の仕方は至って単純で、心で念じれば答えてくれる。なんか心と心の繋がりって感じがする。

 微精霊達はホワホワーっと辺りを暫く漂った後に、テーブルの近くで数人の者達と談笑していた若い男の人の周りに停まって動かなくなった。

「何かオレの近くに微精霊が停まってんだけど、これはオレが選ばれたって事で良いのか?退屈だったし構わねえが」

 軽ーい調子で言うその人は、私達に向かって鋭い牙をキラリと光らせた。その人の雰囲気としては、貴族というよりナンパが似合いそうなチャラ男。肌の色が褐色でアメジストの瞳が目立っている。

「彼は元魔王幹部『暗黒の大帝』の異名を持つオーガスじゃな。あの若造までこの舞踏会に来ているとは…… 」

 言い終わらない内にチャラ男さん改め元魔王幹部「暗黒の大帝」オーガスさんがこちらにやって来た。

「オレこそ、暗黒の大帝との異名を持つオーガスで合ってるが。ルノーア姫もお元気そうで何より!そこの勇者とは死闘を繰り広げた仲だぜ」

 ロイさんの時もそうでしたけど、元魔王幹部の皆様にはルノーアさんが生きてる事ってばればれですね。

「魔族の中では俺と同じく有名人だから仕方ないんだろ。身バレだって普通にするだろうし。あとこいつ強い」

 レイさんがボソッと私に言ってくる。

「今は良いや。それより、王様ゲームってあれだろ、誰々が誰々に何をしろ、とかだよな?誰に何言っても良いんだろ」

 「誰が」それをするかはさっきと同じ風に微精霊に頼むとして、まあそれで合ってます。

 オーガスさんは、何をするかだけ言って下さい。

「オーケー。なら、微精霊に選ばれた一人がここにいるメイドとワルツを一曲踊るってのはどうだ?メイドは綺麗な黒髪で碧眼の子で頼むわ」

 それを聞いて驚いた。

 ここにいるメイドってそれ私の事でしょうし綺麗な黒髪と碧眼を持っているって完全に私の外見的特徴だ。さっき覚悟は決めたとか言ったのに前言撤回したくなってしまうのは仕方ないと思う。

「トワ、ご愁傷様じゃ」

 ご愁傷様なんて軽い事言ってる場合じゃないですよ、私ワルツの踊り方なんて全然知りませんよ…… 。

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