第2話 優しい瞳

森川千奈美さん、森川千奈美さんはいらっしゃいますか?


男性の低音で淡々とした声が薬局の中に鳴り響く。


はい、私です。


私は手を小さく挙げた。


はあ、今日この薬剤師さんか。

苦手なんだよな。この薬剤師さん。


私は心の中でそう呟き、薬剤師の姿を見る。


背が高く、少し茶色がかった髪。

マスクをしていて素顔がわからないが

くっきりとした二重、ぱっちりとした瞳。

すらっとした眉。


綺麗な容姿で、どこかそっけなさを感じることがある

この男性の薬剤師を私は少し恐れていた。


この男性薬剤師が目の前に来ると私は固まってしまうのだ。


お薬変わりましたね。お身体の調子はいかがですか?


静かな声でその男性薬剤師が尋ねてきた。


パニック状態になることは少なくなったのですが、

ただ体重が10キロ以上も急激に増えてしまって。


私がそう話す時も、男性薬剤師は頷きながら真剣に話を聞いてくれた。


以前薬局で担当になった時は、お大事にしてくださいとそっけなくいって

どこかに行ってしまった印象だったのに、あれ?意外と話聞いてくれている。


私は話しやすくなり、薬の副作用で困っていることを細かく話した。


私、体重の増加だけは本当に辛くて、お薬飲むのも怖くって、

体重減らすために、運動しているのですがなかなか減らなくて。


男性薬剤師は考えた後に言った。


急激に体重増えるのはお辛いですよね。

運動をするのも大切かと思いますが、お食事を気をつけ

食べる量を減らされた方が体重は減りやすいかと思いますよ。


私は照れながらいう。


食べるのが大好きで目の前に美味しいものがあると誘惑に負けてしまうのです。


男性薬剤師の目尻が下がり、笑った顔つきになった。


わかります。僕も美味しいもの大好きです。


その時の男性薬剤師の目が本当に綺麗で、優しさに溢れて

私は心に暖かさと、ときめきが広がった。









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ハルジオン @tanoshikukaku333

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