第7話 コンサート

 コンサート当日。島には小さい子から高齢の方まで沢山の人が集まった。皆、船から降りてくる

「すごい人だね」

驚く俺の背中を母さんがそっと押した

「あんたならきっとうまくコンサートを進められる。頑張りなさい」

「ありがとう。行ってくる」

「しっかりね」

 会場である広場に立つとたくさんの拍手で迎えられた。

「皆様、本日はお越し頂きありがとうございます。どうぞ楽しんでください」

再び拍手が起こる

「本日の流れはお手元のパンフレットを御確認下さい。では、最初の曲は―」

プログラム通りにコンサートが進む。流行りの曲から島の民謡まで様々な曲が披露された。

やがて予定されていた全ての曲の演奏が終わった。

 観客の一人が不思議そうに首を傾げた。

「あれ?終わりじゃないの」

本来なら終了のはずだが、ステージでは中村達によって次の曲の準備が進められている。

ステージが整い健一がマイクを握る

「皆様、お聞き下さい。先日、この島で尊い命が失われました。今から演奏する曲は彼女のための鎮魂歌レクイエムです。それではお聞き下さい」

それは、古くからこの島に伝わる子守唄だった。

中村がピアノを演奏し、ボーカルは健一が務めた。精一杯の加奈への手向たむけだった。やがて曲が終了した。拍手は起きなかった。

 コンサートが終了してから3日後の夜。健一は

一人で海岸にいた。周りには誰もいない。海の波は静かだった。健一は少し歩いてそれから海面に仰向けになりそっと目を閉じた。そして月に向かって手を開いたまま右腕を真っ直ぐに伸ばした。

こうすればもう一度加奈と手をつなげるような気がしたから。完

 

 



 

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月に手を伸ばす 女神なウサギ @Fuwakuma

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