生き継ぎ
LeeArgent
生き継ぎ
顔も名前もしらないキミへ。
ぼくが見た夢のはなしを、どうか聞いてくれるかな?
ぼくは夢の中で、虹の橋を歩いていたんだ。雲と雲をつなぐ、七色の橋。
どこに行こうとしたのか、よくおぼえていないけど。多分、空の高い場所へ行こうとしたんだろう。
ぼくは心臓が弱いんだ。だからこの時ぼんやりと、
「僕、天国に行くんだろうな」
って、そう思った。
その時、虹の向こう側から、だれかが歩いてくるのが見えた。ぼくは止まって、その人を待つ。
テディベアだった。茶色くて、ふわふわ。ぼくと同じくらいの背の、子どものクマ。
「はじめまして!」
テディベアは言った。ぼくはちょっと緊張したけど、
「はじめまして!」
って、挨拶した。
テディベアは、
「どうして虹の橋をわたっているの?」
って訊いた。
ぼくもわからない。だから、こう言った。
「気付いたらここにいたんだ」
テディベアはびっくりした顔で、女の子みたいに口を手でかくした。
「あなたはまだ子どもだよ?ここに来るのは早いよ」
テディベアが言っていることの意味がわからなくて、ぼくは首をかしげた。でも、子どもに早いなら、なんでテディベアはここにいるんだろう。
「キミだって子どもじゃないか」
子どもの僕がここにいるのがおかしいなら、子どものキミも、ここにいるのはおかしいよ。
そう言ったら、テディベアは悲しい顔をして、
「わたしは、気付いたらここにいて、もう帰れないんだ」
「帰れないの?どうして?」
「頭をぶつけちゃったみたい。帰り道を忘れちゃったの」
でも、テディベアはすぐに笑顔になった。
「でもね、天使さまも、かみさまも、優しいから大丈夫。お父さんとお母さんに会えないのは寂しいけど。
でも、ここでもたくさんお友だちができたから、悲しくないんだよ」
テディベアは、ぼくのキモチがわかったみたい。
「あなたは帰った方がいいよ。寂しいのはイヤでしょ?」
「うん、お父さんとお母さんに会えないのはイヤだ」
「じゃあ……」
テディベアはぼくにキスをした。今までお母さんとしかしたことなかったから、すごくはずかしかった。
「帰るために、わたしの大切な物を分けてあげる」
テディベアは、おなかについたファスナーをあけた。テディベアのおなかには、たくさんのキラキラと、たくさんの夢、そしてハートが1つ入っていた。その1つしかないハートを、ぼくに渡してくれた。
テディベアは笑って言った。
「わたしの大切な物だけど、あなたにあげる。今のあなたに必要なものだから」
ぼくはそれを受け取った。けど……
「本当にいいの?1つしかないんでしょ?」
ぼくはなぜか泣いてしまった。何で泣いてるのか、ぼくもよくわからなかったけど。
すごくうれしくて、でも、すごく悲しかった。
「1つだけ、約束して。
わたしの大切な物、最期まで大切に使ってね。途中で壊したら、怒るからね」
ぼくは、うんうんってうなずいた。泣きながらうなずいた。
テディベアが手を振って、虹の橋を走っていく。空の高い場所へ……
…………
……………………
ぼくが目をさますと、お父さんとお母さんがいた。そこは病院。お母さんは泣きながら、頭をなでてくれた。
「よくがんばったわね。手術、成功したのよ」
「もらった心臓、大事にしなさい」
ぼくは、左の胸をさわった。
どくん、どくん、力づよい音。テディベアの、ハートの音。今はぼくの胸の中にある。
キミからもらったハート、大事に使うよ。
ありがとう。顔も名前も知らないキミ。
生き継ぎ LeeArgent @LeeArgent
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