6-10 リインカーネーションと最後の巡礼
あれだけ緊張感に満ちていた空気は消え去り、リベラリタス神殿の中は元の静寂を取り戻している。時折、倒れている騎士たちの姿も目にしたが、みんな気を失っているようで動く気配はなかった。
走り続けるうちに見えてきた扉から外へ飛び出し、二人揃って空を見上げる。
「わ、ぁ……」
「……これは……すごいな……」
己の目に映った景色を前に、リーリャもアヴェルティールもぽかんとした声で呟いた。
天窓からも見えていたが、外に出て目にする景色はやはり一味も二味も違うものがあった。
暗い夜が過ぎ去り、遠くで朝の光が燃えている。
明け方特有の空を切り裂くように無数の白い光が、天から地上へ降り注いでいる。その中でも一層強い光が鋭く空を裂き、特定の場所へ向かって落ちていた。
雨のように、矢のように、雷のように。さまざまな形で光が降り注ぐ様子は、普段では絶対に目にできない幻想的な美しさがあった。
これが――初代リインカーネーションが起こした奇跡。
そして、今代のリインカーネーションであるリーリャがもたらした本来の奇跡の形。
アヴェルティールの腕の中で、リーリャは目の前の景色を眺める。
リーリャを抱き上げているアヴェルティールも救国の聖女がもたらした奇跡を見つめていたが、おもむろに口を開いた。
「……さて、リーリャ。これからどうする?」
つぃ、と。
目の前の景色からアヴェルティールへと視線を向け、リーリャはわずかに首を傾げる。
「これからどうする……とは?」
「俺は今代のリインカーネーションを連れ出した挙げ句に王都から追ってきた騎士団の妨害をして、お前は言い伝えられていた伝説に従わず、死ぬのを拒否した。歪められた伝説を信じている連中からしても、王族からしても、俺たちは反逆者だ」
「あ、なるほど……そういうことですか」
今、この国では初代リインカーネーションが起こしたものと同じ奇跡が起きている。
初代リインカーネーションが祈りを捧げた結果、弱者を苦しめる政治をしていた国王が突然倒れたと書かれていたはずだ。
同じことが起きているのなら、今頃王都でも何らかの出来事が起きている。場合によっては混乱が起きている。
今回の出来事でリインカーネーションの伝説に対する解釈が見直されるだろうが、再びカルド王の血を継ぐ者が王座につけばリーリャとアヴェルティールの立場は苦しいままだ。
故郷にいる家族のことも気になるが、きっとあの農村ではリーリャという少女は死んだことになっている。
それに何より、リーリャはここまで生きたい一心で駆け抜けてきた。
(……なら)
ふ、と。口元にわずかな笑みを浮かべ、リーリャはアヴェルティールに寄りかかった。
「多分、今は王室も混乱していると思います。なので、混乱しているうちはリインカーネーション捜索まで手を伸ばせないと思うんです」
「ああ」
「だから、今のうちに一瞬だけ故郷に帰りたいです。両親に無事を知らせて、村のみんなの顔を見て……それから」
「それから?」
アヴェルティールの目がこちらの姿を映し出す。
間近に見える彼の目をじっと見つめたのち、リーリャは柔らかく微笑んだ。
「逃げてくれますか? 一緒に」
静かに過ごせる場所まで、ずっとどこか遠くまで。
リインカーネーションと元巡礼騎士ではなく、ただのリーリャとアヴェルティールとして過ごせる場所まで。
「……ああ。お前を連れてどこまでも逃げてやるさ」
選んだ道は厳しいものになるだろうけれど、大事な人と寄り添いながら進めば乗り越えられるはずだから。
巡礼の旅は終わり、未来を歩むための新たな旅路が幕を開ける。
二人の足は止まらない。互いに寄り添い、平和に過ごせる場所が見つかるまで。
リインカーネーションと最後の巡礼 神無月もなか @monaka_kannaduki
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