甘いひととき。

たから聖

第1話 老夫婦の日常。

ここに、一軒家がある……。


それは老夫婦が住む世界。今日も

とびきりの、イチゴカスタード

パイを

おじいさんの為に、

朝からおばあさんが、こしらえる。



おじいさんにとっては、

おばあさんの作るそのカスタードパイは、


食することが、もはや日課に

なっていた。


そのイチゴカスタードパイは

ほんのりと、甘酸っぱくて


カスタードがイチゴの

甘酸っぱさをより引き立てる

出来映えだ。



おじいさんは、おぼつかない

手つきで、イチゴのパイを


皿に一切れ、、、とても大切そうにのせて、おばあさんと一緒に

食べる準備をしていた。


おばあさんは、パイに合う

紅茶を入れていた。



茶葉のブレンドも、おじいさんの

好みに仕上げた、おばあさんの



自慢の1杯である。


紅茶とパイが、揃うと

おじいさんは幸せそうに、

その出来たてのパイを、口へと

運ぶ……。



『もぐもぐ。おばあさん!!

これは、美味しい!』


おばあさんは、その聞き慣れた

セリフを、いつもにこやかに

聞いていた。



おばあさんは、イチゴのパイを

おじいさんと、共に食べ出す。


『ホントに、美味しく出来上がってますね?』



そこには、二人の静かな時間が

流れていた。



おじいさんが、イチゴのパイを

満足いくまで、平らげてしまった。これも、いつもの事だ。



おばあさんは、嬉しいやら

呆れるやらで、おじいさんを

たしなめた。



『あらあら、おじいさんてば。

よほどの、美味しさに参ってませんか?ホホホ。』


『そうじゃの。わたしは口が

こえとるからのぉ。』



『今日は、天気が良いし

散歩しませんか?』


おじいさんは、おばあさんに

そう言われて


杖を用意した。



それを見て、おばあさんは

驚いた。慌てておばあさんは、


『あらあら、車椅子の方ですよ?

おじいさん。今日は杖で出掛けるのですか?』



おじいさんは、


しばらくの間、遠くを見ていた。

そして、おばあさんに

こう話した。




『わたしの寿命は、もう無い。


せめて、少しでも歩きたいんじゃ。』


おばあさんは、おじいさんの願いを叶えてあげたかった。


しかし、おじいさんの足は

時既に、遅し。



歩く事すら、ままならなかったのだ。


おばあさんは、深いため息を

つくと、


おじいさんの肩を支えた。

おばあさんにとっては、とても

重たくて大変だったが……


おじいさんのここまで、生きてきた証にと、



長い長い年月の車椅子生活に


おじいさんはピリオドを

打ちたかったんだと、おばあさんは解釈した。




肩を支えながら、おじいさんは

杖をつきながら、



言う事を聞かない足を、動かそうとしてみる……



おばあさんは、思わず。

『おじいさん!!頑張って!』



おじいさんは、歯を食いしばると

足が、微妙に動いた。



おじいさんの額からは

汗が……出ていた。おばあさんは



おじいさんに、

(これ以上は、、、、無理させたら。)


そう考えた矢先に、おじいさんは



顔から、前のめりになり

地面にぶつかってしまった!





おじいさんは、、、、。





しばらく、動かなかった。

そのぶつかった衝撃が……頭を

打ちつけていたのだ。




おばあさんは、おじいさんに

呼びかけると



一瞬の間、おじいさんは


笑顔を見せて、





『わしも、やればできる!』




そう、言い残し。深く目をつむったのであった。






おじいさんは、頭を打ちつけた衝撃で……




おばあさんとは、違う世界の

旅人になってしまったのだ。




おじいさんは、天に召される

時に、




おばあさんのカスタードパイ

を想い出していた。




イチゴの甘酸っぱいカスタードパイは、二人にとっては、


想い出の味。




おじいさんは、なぜか?


足の自由が……きくように

なっていた。


おじいさんは、思わず微笑むと

思い切り自由を楽しんだ。



おばあさんは、哀しみに暮れていたけど。



イチゴの甘酸っぱいカスタードパイを、おばあさんは毎日



作り続けていた。



おじいさんが……座っていた

場所に、そのイチゴのカスタードパイを一切れ置き、





おじいさんが……居なくとも

おばあさんは、語りかけていた。



『おじいさん……早いもんですね?もうすぐ、おじいさんが


旅立って、半年近く経ちますよ?

わたしのおむかえは、、、



そっと、お願いしますよ?』



まるで、おじいさんが……返事

をするかの様に。



温かい紅茶からは、

ふわふわと、湯気が上がっていた。




おばあさんは、イチゴのカスタードパイを一切れ食べて、



おじいさんの写真に目を向けると



どこからか、おじいさんが

笑っている声が……聞こえた様に



感じた。




『わたしも、そちらへ。

ようやく、、、行けるのね?』




おばあさんは、椅子にもたれ

かかると、そのまま息を引き取った。





享年、、、98歳。




おばあさんは、役目を果たして

二人で……仲良く





天国へと、旅立った。






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甘いひととき。 たから聖 @08061012

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