第6話 最期の星と花が降る夜に
目が覚めると私は教室の自分の椅子に座っていた。
あれ?私は死んだんじゃ……。
「明日はいよいよ七夕祭りです。みなさん、楽しみましょうね」
黒板の前で先生がそう言った。
明日は七夕祭り……。学年の札を確認すると1年と書かれていた。私は1年生に戻ったのか?という事は……。
10年前の七夕祭りの前日か。
でも何で前日にタイムスリップしたんだろう?
「気をつけ、礼。ありがとうございました」
先生が教室を出て行った。時計は16時を指していた。もう授業が終わったのかなあ。
みんながランドセルを背負って帰り始めた。私も帰らないと……。机の中にはある物を全部ランドセルに入れようとした時、何やら紙らしきものが入っていた。
「今日の放課後、体育館に来いよ」
瑠璃達からもらった手紙に少し似ていて怖さを感じたが、私が瑠璃と出会ったのは高校の時。
小学生の時、私に友達なんて誰もいなかった筈だけどなあ。まあとにかく行ってみるか。
私はランドセルに教科書を全て詰めて、教室を出た。
あまりにも久しぶりの小学校だったため、体育館がどこにあるか忘れていた。迷いに迷って30分。やっと体育館を見つけることができた。
「お前、あいつに告白するんだろう?」
体育館の中から声が聞こえてきた。私は外から少し聞いて見ることにした。
「ああ。俺は美香の事がずっと好きだったからなあ」
「明日の七夕祭り、一緒に行けば?」
「そうだね。そうするわ」
私の事を好きな人がいるの?
この世界に私を好きになってくれる人なんて1人もいないと思っていた。でも、ここにいたなんて……。
私は顔を赤くしながら何も聞いてなかったかのように体育館の中に入っていった。
「はじめまして。僕は
その人はとても優しくて頭が良さそうな感じがした。
この人なら私を分かってくれそうだ。
「私は美香です。よろしく」
「あの……明日、一緒に七夕祭り行きませんか?」
七夕祭りでデートか……。ドキドキするなあ。
でも、誰も行く人はいないから
「はい」
大翔君はガッツポーズをして喜んでいた。
その姿が本当に可愛らしいかった。
私も大翔君のことをもっと知りたい。私の事ももっと知ってほしい。明日、きっと告白される。どんな言葉で告白されれんだろう。
「それだけを言いたかった。じゃあまた明日」
大翔君とその友達は体育館を速やかに出て行った。
明日、私はどんな服で行こうか?
告白されるのならどんな服が似合うのだろうか。
家に帰って夜ご飯を食べてから、私はずっと服を選んでいた。これが男との初デートなんだ。少しでも良い服を選ばないと。1時間、悩んだ挙句、私は普通に着物を着ることにした。
「お母さん、明日、着物で行くよ」
「うん……」
お母さんは無言でテレビを見ていた。
そんなに真剣に何を見てるの?
「次のニュースです。先程、小学1年生の高橋大翔君が山奥で遭難しました。明日の下見に行ってくると言って出かけたのが最後でそこからもう5時間が経とうとしています」
大翔君……。次の日になっても大翔君は見つからなかった。今日は七夕祭り。会場が大盛り上がりの中、私は山奥に大翔君を探しに行った。
「どこにいるの?」
せっかくのチャンスだったのに……。
ポツン
私の頭に水が落ちた。上を見上げた瞬間、豪雨が訪れた。早くどこかに……。目の前に小屋が見えたので、そこに入った。
「大翔君、どこにいるの?」
私は泣きながら小屋で倒れ込んだ。もっと話したかったのに……。まだ会ったばかりじゃん。
「おい、美香。何してるの?」
大翔君かな?振り返るとドアの所に和樹がいた。
なんだ……和樹か……。
「大事な人を待ってたの……」
「そうなんだ……」
和樹が私の隣に寝転がった。
「これって全て夢なんだよね?」
和樹が私に聞いてきた。実体験のような感じがするが、全て夢だろう。10年前にタイムスリップするなんて……。私ももう死んでいるはずなのに……。
「うん」
バン
扉が思いっきり開く音がした。
「和樹、会いにきたよ。占い師が山奥で彦星と織姫が出会った時、再び星と花が降るって言われたの」
宙が小屋に入ってきた。宙も死んだんじゃなかったの?やっぱりここは夢の世界だ。
「宙、久しぶりだね」
「うん。美香。会いたかったよ」
「宙、彦星と織姫って誰の事なの?」
私は宙に聞いた。
沈黙が20秒間流れていき、その啖呵を切ったのは宙だった。
「あの……和樹。私、ずっと好きだった。だからこれ、受け取ってほしい」
宙が和樹に彦星のキーホルダーをあげていた。
「ありがとう。俺もずっと好きだったよ」
「これで和樹は彦星だね」
「うん」
宙の手には織姫のキーホルダーがあった。
窓を見ると豪雨は止み、花火大会が再開していた。
やっぱり彦星は和樹で織姫は宙なんだ。
私は宙には勝てない。でもこれで良いんだよ。
3人で会場に戻った。星と花が咲いていた。
本当に幻想的だ。
「みんなで短冊に書こうよ」
私達は短冊に願い事を書いた。
和樹は何故か分からないけど、短冊を1枚持ってきていた。何を書こうかな。よし。これにしよう。
私はペンで濃くはっきりと書いた。
「みんなの願い事が叶うと良いね」
「うん」
『3人でもう1度、星と花が降る夜を見たい。宙』
『最期に3人でもう1度、星と花が降る夜を見たい。
和樹』
2人の短冊が静かに風に揺れていた。
『和樹と宙の2人で星と花が降る夜をもう1度、見てほしい美香』
私は2人の幸せを祈るよ。もう私が居たところで2人の邪魔をするだけだから。2人で行っていいよ。私はまた10年前のように1人で過ごすから。
「美香。それが本当の願いなの?」
和樹が私の短冊を見て怒っていた。
「うん……」
「俺達と離れても良いの?」
「別に……いいよ」
「俺は……嫌だ」
「私も美香とずっと友達でいたいよ」
2人の声が重なり合う。やっぱり2人は気が合ってるね。私はこの10年間を振り返ってみた。
もし、2人がいなかったらどうなってたのか?
私は1人でずっと生きていたかもしれない。
1人はやっぱり寂しい。2人が居てくれて良かったんだ。夏休みも毎日、遊びに行った。
その日々が私の大切な思い出だ。
私はもう1度書き直すことにした。
『和樹と宙とずっと一緒にいたい。美香』
星と花が降る夜にこの願い事が届くように。
目が覚めると私は公園で倒れていた。
あれ?私は死んで無かったのか。
自殺を試みた者は死にたいと思って死ぬはずなのに、
今は死ななくて良かったと思っている。
3人で今年も星と花が降る夜を見ないと。
プルルル プルルル
「もしもし。美香、宙が……」
和樹からの電話だった。私は急いで病院に向かった。
宙、もう1度一緒に見るんでしょ?お願い。まだクリスマスの事も謝ってない。もう1度だけでいいから一緒に見に行こうよ。最期の星と花が降る夜を。
最期の星と花が降る夜に 緑のキツネ @midori-myfriend
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