残像探偵少女『恨みつらみ。大好きが事件を起こす』後編

「ごめんなさい。私が全部やったの」


 杉山玲香さんは本田真奈さんへの嫌がらせを認めた。

 私、犯人は暴いたわよ? とっくのとうに。

 ほうら、5分以内だからね。


「これから可能性がある動機を言うわね。動機その1、杉山玲香さんは本田真奈さんが付き合っている遊馬さんが好きで事件を起こした。動機その2、単純に嫌いなだけ。杉山玲香さんは本田真奈さんの事がずっと気にくわなかった」

「ち、違うわ。……私はそんな。真奈の事は……嫌いじゃない」

「動機その3、杉山玲香さんは本田真奈さんを大好きだから。可愛さ余って憎さ百倍ってとこかしら?」

「えっ? 美咲さん、どういう事です?」


 私は深く息を吐いてから、杉山玲香さんと本田さんの顔を見た。


「俺からも補足事項だ。言ってもいいかい? 美咲」

「ツカサっ。あんた、犯人の目星は最初っからつけていたんでしょう?」

「まあな」


 イケメン探偵の藍川ツカサも教室に来て、これで面子めんつが揃ったってとこね。


「集まった情報から言える事はさ、杉山玲香さんは親友の本田真奈さんに遊馬君という彼氏が出来て寂しくなったんじゃないかい? 本田さんは杉山さんより遊馬君と遊ぶようになった。自分より彼氏を優先して。違うかい?」

「……」

「そうなの? 玲香」

「……真奈」

「私、残響の声も拾えるの。『遊馬君が憎い。こんな事してごめん、真奈』って犯行を重ねる度に杉山さんは謝ってた」


 杉山玲香さんは泣き崩れた。


「うぅっ……。真奈、ごめんなさい! こんな事してごめんなさい……」

「玲香……」


 本田真奈さんの事件は解決した。

 犯人の杉山玲香さんは、親友を被害者にしてしまった。本田真奈さんを大好きで、独占したい気持ちからくる歪んだ友情で苦しめた。


 これからどうするかは二人が、いや、被害を受けた本田真奈さんが決める事だ。

 杉山玲香さんを許すのか、それとも……。

 友達を大好きって気持ちが招いた今回の事件。

 いずれにしても杉山さんのやった事は酷い。

 いじめや嫌がらせなどの人を悲しませる行為は絶対に駄目だ。決してすべきじゃない。


 そうそう、依頼者の本田真奈さんには檜山君に伝えに行かせたけど、私は金品などの報酬は受け取らないわ。

 その代わりに、もし困っている人が学園内にいたら私の存在を教えてあげてと言っといた。


 学園ポスター?

 もちろん、私が檜山君と載る事になったわよ。

 だけどさ、何故かちょっとだけ活躍したツカサも一緒にってとこが、解せないんですけど。

 檜山君調べによると、学園内の女子人気は圧倒的に藍川ツカサの勝ちらしい。

 ツカサも我が学園で活躍してるからだって。

 勝負だったんじゃないの?

 美味しいところをツカサに持っていかれた気分。

 もーっ、なんか腹立つから、私は探偵の特訓に走るわよ〜!


「檜山君、家までランニングするわよ」

「あっ。はっ、はいっ? 美咲さ〜ん、待ってくださいよ〜」


 あっ、言い忘れてた。

 檜山君って今、うちの探偵事務所に居候してるの。

 私のお祖父様に弟子入りしてて、目下修行中の身なんだ。

 あ〜、一緒に暮らしてるからって、檜山君とはやましいことは一切ありませんからね。

 だって檜山君って頭は良いけど、外見は体型がアイス棒みたいで、顔は可愛いワンコみたいなんだよ?

 私はね、ガタイががっちりしてて格好良くてワイルドでむっちゃ強い男性が大好きなの。

 空手とか柔道とか剣道を嗜んでいたらさらに理想的だわ。

 そして性格はジェントルマンにしてミステリアスが良いわね。

 普段は生徒会長とかで正体は怪盗とか素敵よね。……って私だって分かっているわよ! そんな人はいるわけないし、怪盗は犯罪者よ、私は探偵だもの禁断の恋になっちゃう。

 ただの理想空想妄想ですわ!


 さてさて。

 私は残像残響を知れる異能力者だから事件の犯人はササッと暴けるわ。

 だけど、事件の動機や真相や背景を知るにはもっともっと物を知らなくっちゃいけないし、勉強も必要よね。

 人の気持ちって複雑怪奇な難問だ。


 従兄妹のツカサに負けてらんないわ。


 あなたがもし何か事件でお困りなら、ぜひ残像探偵一条美咲を頼りに来てね。





               完


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残像探偵少女 桃もちみいか(天音葵葉) @MOMOMOCHIHARE

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