残像探偵少女『恨みつらみ。大好きが事件を起こす』中編

 私達が1年サクラ組に到着すると、イケメン探偵の藍川ツカサとすれ違う。


「やあ、美咲。俺は大体調査が済んだから、後は事情聴取に向かうよ」

「悪いけどツカサ、今回も私の勝ちね。もう犯人は見えているわ」

「残像だけでは不足では? 犯人を暴いただけでは隠された真実が分かるとは限らない。俺は俺なりの方法で最善の解決を目指すさ」


 もーっ、いけ好かない奴!

 でもツカサの言うことももっともなとこがある。

 犯人を突き詰めて暴くだけで良いのか。

 依頼人にとって良い方向での解決が望ましい。

 特に今回みたいな案件は――



 放課後の教室にはいるのは私達3人だけ。

 依頼者の本田真奈さんの机には「死ね。遊馬と付き合うのをやめろ」と赤い絵の具で書かれ、椅子は真っ赤に染まっている。


「こ、これは酷いです! 本田さん、先生には言ったのですか?」

「チッチッチ、檜山君。こういういじめや被害を受ける人は先生には言えなかったりするのよ」

「そ、そうなんですか?」

「……はい。私、先生には言ってません」

「やっぱりね。じゃあさっそく始めるわよ」


 私は胸の前で両手を合わせ、集中しジッと目を凝らす。

 周りがぐんっと遠くなる。

 声、気配。

 私は照準を合わせる。

 かちかちかちり、意識のチャンネルをちょうど犯行が行われてる時間軸に合わせると、うっすらとやがてハッキリ犯人の姿が見えてくる。


 私ね、実はもうランチルームでも既にこんなことをしたであろう犯人は見えていたの。

 ランチルームで本田さんの財布をこっそりバッグから盗んだ人間がいて、机に脅迫めいた文言を書いた人物。


 他にも本田さんの持ち物を盗んだり、教科書を破り、ロッカーを壊している。


「悪質だわ。そして犯人は本田さんの身近にいる」

「私の近くに……?」


 本田さんは怯えた顔をしてる。

 当たり前か。

 連日こんな嫌がらせを受けているんだ。

 きっとされてる訳や理由も分からず、正体も知らずにいるのって、すごく不安よね?


 異能力を使い残像を読み解くだけでは心は見えない――か。

 だから、探偵である私は推理するのよ。


「ねえ、大丈夫? 真奈。また何かされたの? 許せないわ。真奈は遊馬君と別れた方が良いよ。彼なんかと付き合ったからこんな目に……」

「玲香!」


 本田さんを心配した顔で、本田さんのクラスメートの杉山玲香がやって来た。彼女に駆け寄る。……心配して。フッ。


「ねえ、檜山君、ここに来て何分経った?」

「あっ、えーっと3分20秒です」

「じゃあ、そろそろ畳み掛けるとしましょうか。この本田さんへの嫌がらせをした犯人はあなたです!」


 私はその人物を指で指し示す。


「な、何言ってんのよ!」

「まさか。そんなわけ無いです、一条さん。玲香は私の大切な親友なんですっ」

「私、残像探偵なの。見えたのよ、あなたが本田さんの机に酷い脅迫文を書いたり、財布を盗んだり、教科書を破くところがね」

「嘘。なんで? 玲香はそんな事してないよね?」

「本田さん。私には犯人が見えています。動機は幾つか挙げられますけど知りたいですか? 少なくともあなたには知る権利があると思います」


 本田さんの親友という立ち位置を利用して、杉山玲香は数々の罪を犯した。


「私じゃない、言いがかりよ。財布は真奈が落としたのを私が拾ってあげたのよ? 教科書だって見せてあげてるもの」

「杉山玲香さん、あなた、学生だからって許されると思ってる? あなたの犯した罪はざっと挙げただけでも脅迫に窃盗横領に器物損壊が並んでるのよ? 刑事事件にしようと思えば出来るって知ってた? いじめは犯罪だよ。許されるべきじゃない」


 蒼白した杉山玲香もショックを受けている本田さんも黙り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る