残像探偵少女

天雪桃那花(あまゆきもなか)

残像探偵少女『恨みつらみ。大好きが事件を起こす』前編

 私は探偵だけど殺しの現場には行かないわ。


 ――だって見えてしまうもの。


 残酷残忍な現場は大の苦手。

 血と狂った犯人が苦手で大嫌い。

 その代わりにと言ってはなんですが、幽霊とかオバケとか未知との遭遇系はてんで怖くない。


 私一条美咲は、血のなるべく流れていない事件現場が理想、殺しのない事件専門の高校生探偵よ。


      ◇◆◇


 新緑が鮮やかで目に眩しい5月のある日。

 南風は爽やかに穏やかな空気を運ぶ。


「檜山君、行くわよ! 私なら5分で犯人を暴いてやるわ」

「まっ、待ってくださ〜い」


 もう足が遅いんだから。後で私と特訓よ。

 探偵たるもの、日々の鍛錬も必要なの。時には逃げる犯人を追いかけて捕まえなくてはならない。

 錆びつかない頭脳、犯人を追いかける俊敏な美脚。私には必要なそれら2つの要素は毎日磨いてこその賜物よ。

 私の異能力でけれど、動機や事件が起こった背景にはやはり推理力が必要よね。

 これぞ探偵の真髄、真骨頂。

 私は己の誇りを掛けて、事件に挑んでいるわ。


 今日も依頼を受けた私は、高校生探偵一条美咲。

 伊達の赤縁メガネを掛け、今日の髪型は三つ編みツインテールでバッチリ決めましたわよ。

 助手で同級生の、ちょっと頼りない見た目はチワワっぽい檜山カケル君を連れて、依頼者の元へ向かう。

 私は先祖代々の異能力者で、事件現場の残像が見れ、声が聴こえるのだ。

 お祖父様もお父様も異能力を活かした探偵なの。


『どちらが先に事件を解決できるか勝負だ! 勝った方が学園ポスターになる』って挑戦状が届いて……!?


 挑戦状の差出人はイケメン探偵で有名な藍川ツカサ。

 彼とは実は幼馴染みで従兄妹なわけ。

 ツカサは異能力者ではないみたいだけど、油断は出来ないわ。

 相手は私に挑むだけあって、頭はキレるみたいだから。


 さあて学園内で圧倒的支持を受けるのは私か、ライバルのイケメン探偵くんか。


「美咲さん。こちら今回の依頼者の本田真奈さんです。彼女のクラスは1年サクラ組です」

「知ってる」


 学園のランチルームで私と助手の檜山君は依頼者に会う。

 この学園に通う生徒や先生の顔と名前はだいたい覚えているの。

 これも探偵の特訓の一環ね。


「さっそく事件現場の一つを案内してくださる?」


 犯行現場や手掛かりがありそうな場所を見れば、私には犯行時の残像が見え、残響が聴こえてくる。


「えっ? 詳しい話を聞かないで、もうですか?」

「事件内容は現場を見ながら聞くわ。その方が効率良いしね。あなたも解決は早い方が良いでしょ?」

「あっ、はい」


 聞けばこの依頼者を私に紹介したのはイケメン探偵ツカサ。

 つまりはこの案件で勝負しようってこと。


「さあて、私は探偵一家一条家の誇りを掛けてこの事件に挑んでやるわよ」

「頑張ってください! 美咲さんっ」


 私達は本田さんのクラスのサクラ組に向かう。

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