自殺以上他殺未満

双葉 黄泉

第1話 ~その1

「まぁ、でもよぉ~!」

 バイト先の駅弁製造工場の同僚であるやぶさんが、この日特注の入っていた「いなり寿司」を僕も含めた数人のパートやアルバイトと共に握っていた時、最近ニュースなどで話題になっている「毎年減ることのない自殺者」について彼なりの持論を唱え始めた。


「死にたい奴は勝手に死ねばいいんだよ!周りに迷惑をかけずに。ひっそりと……」

 かつて自殺未遂をしたことのある僕は、藪さんの冷たい言葉に少しだけ反感を抱いたが、何も口に出さずにいなり寿司を凄いスピードで握っていた。


「でもね、藪さん。自分で自分の命を絶つって相当の事だよ!辛いんだと思うなぁ……」

 ベテランのパートで主婦でもある坂本さんがやんわりと、尖ってきた会話の緩衝材かんしょうざいをこの空間に敷き詰めてくれた。


「そうじゃねぇんだよ!俺が言いたいのは自殺するような「意気地なし」は生きていてもろくな人生を送れやしないってこと!」

 藪さんの言葉を聞いていた僕は、確かにそうかもしれないな……なんて思ってしまった。その言葉はある意味「生きること」の核心を突いていて、尚且つ聞くものの心臓をえぐり取るような深くて一理ある残酷な人生観だと思わされた。



 人生に於いて生きる希望を失くしてしまった人達は、決して短絡的に「自殺」という最後のカードを切る事はしないはず。嫌な環境に置かれているのなら、そこから“逃げ”ればいいし、この“逃げる”という行動が、生き残る為には凄く重要な事になってくる。


 藪さんが言ったように僕らは“意気地なし”なのかもしれない。このままではろくな人生にならないかもしれない。“自殺”という見える人にしか見えない悪魔の選択肢は恐らくは四六時中ついて回る。パフォーマンスではない形でひっそりと自らの命を絶つのだ。


 そして“自殺”というキーワードに最も多く絡みついてくる事例が“イジメ”なのだろう。イジメの根幹には加害者側と被害者側の認識の違いが多く見られる。


 イジメている側は罪の意識など皆無で、半ばゲーム感覚にターゲットをありとあらゆる手段を使って肉体的、精神的に追い詰めていく。


 イジメられる側について……やられたらやり返すくらいの気概があれば、そんなにしつこくターゲットに選ばれ続けない。あくまでも“無抵抗”で“心穏やか”な存在が、奴らの恰好の餌食に選ばれ続けてしまうという腐った方程式は、いつの時代も変わらない。



 イジメの研究をしている方々の中にはイジメによる“自殺”は加害者による“他殺”つまり、殺人と同じ行為だと警鐘を鳴らしている。自殺の原因となる心労のほぼ全てが悪質なイジメからきているはず。直接的な殺人行為ではないが、被害者を心身共に疲弊させて、まともな思考回路すら働かせはしない。


 さっき述べた通り、やられる側も“やられたらやり返す”或いは“危険な環境から逃げる”という選択肢どちらか一つさえ持っていれば恐らく最悪の事態は未然に防げる。いや、果たしてそうかな?今の時代はスマホやタブレット、パソコンなどが普及しているので、それらの端末上のアプリやツールを使えば遠隔でターゲットを再び支配下に置くことは容易なのかもしれない。


 ~その2へ続く

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